吉岡里帆と蓮佛美沙子が初共演、舞台『まつとおね』が宿す未来への希望
群雄割拠の戦国時代を生き抜いたふたりの女性にフォーカスする舞台『まつとおね』が、2025年3月5日(水)から3月23日(日)まで石川県七尾市の能登演劇堂にて上演される。 【全ての写真】舞台俳優としても着実にキャリアを重ねる吉岡里帆と蓮佛美沙子が初共演する舞台『まつとおね』チラシビジュアル 本企画は以前から準備が進められていたものの、1月1日に起きた令和6年能登半島地震で公演場所である能登演劇堂も被害を受けたため、上演が一旦延期に。だが、劇場の修繕が進んだことから、復興祈念公演としてあらためて上演が叶う運びとなった。9月には東京都内で記者発表もおこなわれ、出演の吉岡里帆、蓮佛美沙子に加え、原作・脚本の小松江里子、演出の中村歌昇、七尾市出身で本公演を企画した近藤由紀子プロデューサー、茶谷義隆七尾市長らが登壇。それぞれが作品にかける熱い想いを語った。 ここでは作品の見どころや日本国内でも稀有な劇場である能登演劇堂について綴っていきたい。 本作『まつとおね』は吉岡里帆と蓮佛美沙子のふたり芝居。加賀藩主・前田家の祖となった前田利家の正妻・まつを吉岡が、天下人となる豊臣秀吉の正妻・おねを蓮佛が演じる。利家も秀吉も元は織田信長の家臣。その関係もあり、それぞれの正妻であるまつとおねは一時期同じ長屋に住み友人関係を築いていた。このあたりのエピソードは2002年に放送されたNHK大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』でも詳しく描かれているのでご存じの方も多いかもしれない。ちなみにこの大河ドラマではまつを松嶋菜々子が、おね(ねね)を酒井法子が演じている。 ともに夫の出世と天下泰平とを願い、仲の良い友人同士として同じ時を過ごしてきたまつとおね。だが、明智光秀が起こした本能寺の変で織田信長がこの世を去り、織田家家臣の間にも不穏な空気が漂い始める。結果、信長が築いた地位を引き継ぎ天下を治めることになったのは“イヌ”と可愛がられた利家ではなく、“サル”と呼ばれた秀吉だった。今回の舞台『まつとおね』では、夫たちの関係性の変化と、妻たちが抱える心情の変容も繊細に紡がれていくのだろう。 まつを演じる吉岡里帆。ブレイク作品ともいえるNHKの朝ドラ『あさが来た』(2016年)をはじめ『カルテット』(TBS/2017年)、『時をかけるな、恋人たち』(関西テレビ/2023年)など多くの映像作品で活躍しているが、じつは舞台にも積極的に出演。中でも印象深いのは、『ナイスガイ in ニューヨーク』(福田雄一演出/2016年)で見せたコメディエンヌぶりや、劇団☆新感線『いのうえ歌舞伎「狐晴明九尾狩」』(いのうえひでのり演出/2021年)での桃狐霊役だ。突き抜けたコメディから外連味たっぷりの芝居まで、舞台上では映像作品と一味違う魅力を発揮する吉岡が、たおやかでありながら誰よりも強い芯を宿すまつをどう演じるのか注目したい。 おね役を担うのは蓮佛美沙子。彼女も映像作品で強い印象を残す俳優だが、これまでの出演作をあらためて振り返ると『八つ墓村(NHK/2019年)、『鵜頭川村事件』(WOWOW/2022年)、『坂の上の赤い屋根』(WOWOW/2024年)といったミステリードラマへの出演も多いことに気づく。これは蓮佛が不思議な透明感をまとっているからかもしれない。舞台作品への出演は少ないが、特にピックアップしたいのが出演者2名の朗読劇『ラヴ・レターズ』(青井陽治演出/2010年)。15年ぶりとなるふたり芝居『まつとおね』でこれまで多くの俳優が演じてきた天下人の妻・おねを蓮佛がどう立ち上げるのか、こちらも注目ポイントである。 吉岡と蓮佛は『まつとおね』で初共演。乱世を生き抜いたふたりの女性を彼女たちがどう構築し、どんな化学反応を起こすのかその行方を見守りたい。 さらに本作では歌舞伎俳優・中村歌昇が演出家デビューを果たす。歌舞伎の場合、座頭(ざがしら)の俳優が中心となって作品を練り上げていくため、通常は演出家が存在しない。そんな伝統芸能の世界でめきめきと頭角を現してきた気鋭の歌舞伎俳優がどんな劇世界を作り上げるのかも見どころのひとつだ。歌昇は地震の被災地を訪れ、その被害を目の当たりにし、能登で『まつとおね』を上演することの意義と希望とをあらためて胸に刻み、決意を新たにしたという。 舞台『まつとおね』が上演される能登演劇堂は日本で唯一、自然と舞台とが一体となった演劇専門のホール。1980年代から、旧・中島町(現在の七尾市中島町)と名優・仲代達矢、仲代が主宰する演劇私塾「無名塾」との交流及びリレーションシップが始まり、1995年に両者の想いが結実してこの劇場が開場した。座席数は約650で最大の特徴は舞台奥の扉の全開が可能なこと。つまり、作品の上演中に実際の能登の雄大な自然を演出や背景の一部として観客に提示することが可能というわけだ。東京・渋谷のシアターコクーンなどでも舞台奥の搬入用扉を開け、実際の街の風景を見せることはあるが、ここまで自然そのものを演劇の世界に引き込める劇場はこの能登演劇堂だけだろう。 大きな地震や豪雨に見舞われた能登の復興のひとつの象徴として、また被害を受けた能登演劇堂の新たなスタートとして上演される舞台『まつとおね』。チケットはオフィシャル二次先行が11月4日(月)からスタートし、11月18日(月)まで受付中。乱世に翻弄されながらも未来を信じ続けたふたりの女性の生きざまと、演劇と自然との融合を能登演劇堂で体感し、復興の息吹きを受け取ってほしい。 文/上村由紀子