「まるでテーマパーク」風光明媚な地に突如現れた〝異界〟…「雄琴」に今なお熱心に通うお客がいるワケ
日本に今なお点在する32地点の〝異界〟を紹介している『ルポ 日本異界地図 行ってはいけない!? タブー地帯32選』(風来堂・編著、清談社Publico)。この中の「色街」のパートを担当した風俗ジャーナリストの生駒明氏に〝異界〟としての色街について話を聞いた『消え行く〝異界〟の中で…全国でただ1ヵ所、賑わいを見せる「飛田新地」の現在』の続編。飛田新地が〝異界〟として今なお姿をとどめている理由とは。 【元祖】ソープの街・雄琴はこの店から始まった──「花影」 前編はこちら:『消え行く色街という〝異界〟の中で…全国でただ1ヵ所、賑わいを見せる「飛田新地」の現在』 「私の持論ですけど、飛田新地は組合がしっかりしていて、全店深夜12時までの営業だったり、コロナ禍には一斉にパッと休業するなど、非常に足並みがそろっているんです。 料金も統一されていてトラブルも少なく、行政にも協力的。飛田新地に来るお客で地元の商店も潤うなど地域社会にも貢献しています。そこが非常に大きいですね。当局としても治安は保たれるし税金も払ってくれるからありがたいわけです。あそこの経営者たちは自分たちが絶滅危惧種だという自覚があるんですね。だから、生き残るためには何をすればいいかわかっている」 それだけ地域社会へ貢献できている背景には、もちろん商売がうまくいっているという前提がある。それは飛田新地独特の経営スタイルによるところが大きいという。 「飛田新地のお店は〝持たない〟経営なんです。待合室も送迎車もなければ、HPなどもなく広告も出さない。そういったサービスがなくても、昔からある有名な場所なのでお客は来る。固定費の負担が少ないぶん儲かるんです。 しかも飛田は20分で1万6000円が相場。普通はヘルスだったら30分で1万円ぐらいなので、分単価が高い。さらに短時間でお客を回せるから、数をこなせる。稼げる女の子にとってはすごく稼げる場所でもある。地元の人々に貢献している飛田新地は、当面現状のまま存続していくでしょう」 では、生駒氏が挙げる、現在に残るもう一つの〝異界〟雄琴はどうなのだろうか。 雄琴は、昭和46(1971)年にオープンした新興ソープ地帯だ。高度経済成長による車社会化の波に乗って、郊外にあるソープ街には多くの客が押し寄せた。次々と店が建ち、地元も潤う盛況ぶりだったが、’70年代をピークに店舗数は減少している。 「雄琴には去年の末に行ってきたんですけど、まさに自然と融合している風光明媚な場所なんです。琵琶湖があって田んぼがあって駅の電柱にはなんと鷹が止まっている。そんな場所に巨大なソープランドが30軒以上集まっているんです。都会に比べて土地が広くて安いから雄琴のソープは建物が大きくて、まるでテーマパークのようにメルヘンチック。これは本当に別世界ですね。まさに〝異界〟です」 歩いて5~10分ほどの場所には温泉街があるが、こちらは健全なイメージで売り出しているまったく別の街で、綺麗で洒落た雰囲気の旅館は家族連れや外国人にも人気。ソープ街と温泉街の棲み分けがきっちりできているという。 「雄琴は関西では数少ないソープ街なんです。大阪にも京都にもソープはないので、神戸の福原と滋賀の雄琴が2大ソープ街って言われていて、関西では貴重な遊び場です。 昔から『雄琴娘は仕事ができる』と言われるほど、雄琴の女の子のテクニックは有名でした。雄琴は福原や歌舞伎町のような歓楽街がありません。ソープ目的の人しか来ないから、なかなか一見のお客が期待できないんです。常連客や指名客を増やさないと女の子は生き残れなかったために、一生懸命技術を磨いたという歴史があります」 ピーク時とくらべて店舗数は減ったものの、雄琴には現在でも昔からの常連客が熱心に通っているという。だが、ソープ遊びに馴染んでいる高齢者が減り、デリヘル遊びが主体の若者が増えていくという世代交代がここでも起こることを考えれば、その将来は決して明るいものではない。 遊び方の変化、法による規制、人口の減少など、色街をめぐる状況は厳しく、今後もその存在は薄くなっていくだろう。だが、それが完全に姿を消すことはないと生駒氏は断言する。 「〝異界〟は行くと、みんなが元気になる場所。遊んでエネルギーを回復する非日常の〝ハレ〟の場所なんです。わかりやすい例はお祭りです。お祭りが時間次元の〝異界〟なら、色街は空間次元の〝異界〟なわけです。お祭りで元気になるのと同じで、色街に行って遊ぶとみんな日常の檻から解放されて元気になる。普段、自宅での慎ましい生活とはかけ離れたことができるんです。 そういった場はなくならないし、なくさない方がいい。ましてや飛田新地や雄琴の場合は、もう一つの文化になっているわけですから。今は家族で遊べる場所はたくさんできていますけど、成人男性だけが遊べる場所はなかなかない。そういう意味では非常に貴重な場所なんです」 姿を消していく色街は、表立って歴史に残ることのない〝文化遺産〟なのかもしれない。
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