渡辺謙 60代に入り気持ちに変化「時間の流れが深海魚のようになる」
日本を代表する俳優であり、映画「ザ・クリエイター/創造者」(2023年)など、ハリウッドでも活躍を続ける渡辺謙。 二度の大病を乗り越え、不死鳥のように蘇った渡辺の生き方、だからこそ同世代に、今の若者に伝えておきたいメッセージとは? 【動画】妻夫木聡×渡辺謙「生きとし生けるもの」本編 ――渡辺さんは、二度にわたり、病を克服されましたが、差し支えなければ、当時の心境を教えていただけますでしょうか。 「最初に病気をしたのが20代最後の年だったので、とにかくその時は“どうやったらもう一度、生きながらえるか…”ということだけでした。それは家族のため、ようやく軌道に乗りつつあった仕事のためでもありましたが、5年後にその病気が再発したんです。退院して少しずつ仕事が戻ってきた矢先のことでした。 “もう一回、あの苦しい治療を繰り返さなければいけないのか…”そう思うと、ある意味、一度目よりも絶望しましたが、復帰した時の“生きている感覚”みたいなものが強く残っていて、“俳優として戻れなかったら意味がないぞ!”と踏ん張って治療した記憶があります」 ――何のために生きるのか、踏ん張るのか…年齢とともにその価値観も変わりますよね。 「おっしゃるように、目的というものは変わっていくんですよね。この時の“何のために生きるのか?”というのは、“今、自分がどうしたいのか”ということを、きちんと家族や僕の復帰を待っていてくださる方々に見せられるかどうかが大きかったような気がする。パニック状態から自分がもう一個、抜け出すためにはね。 家族、プロデューサーや監督、その先にいる視聴者や観客の皆さん…。僕みたいな俳優でも、待っていてくれる人たちがいる。そう思った時、ただ生きながらえるのではなく、俳優として戻らないと生きる意味がないかなと思ったんですよね。こうして話すと、自惚れていて恥ずかしいですけど(笑)、そんなことを強く思いました」 ――さまざまな障壁や困難を乗り越え、現在は60代。ハリウッドとの行き来もある中、日頃の過ごし方や心の持ちように変化はありましたか? 「作品と作品のインターバルの間は、本当に何もしなくなりました。30~40代の頃は、作品が終わると、すぐ次の作品に取り掛かる準備をしたり、面白い原作はないかなと探したり…。例えば、本や映画に触れると何かそこから得ようとしていたんですよ。 波のような引きの力があったんですけど、今は全くないです。波は波でも同じところをゆらゆら漂っている。現役ですから、作品に入るとザワザワしますが、以前のようにオフの日まで仕事のことを考えることはありません」 ――では、最近のインターバルの過ごし方は? 「今はもう何もしないです。1日中、ぼーっとしています。映画を見ても本を読んでも、ただ“楽しいな”と、やっと観客の気持ちでいられるようになりました。時間の流れみたいなものが、深海魚のようになるんですよね(笑)」 ――60代に入った渡辺さんが今の時代をご覧になって、何か感じることはありますか? 「一概には言えないかもしれませんが、何となくみなさん、満たされていないんじゃないかな? と思うことはあります。本当に満たされることが少なくなった…。それは僕と同世代の皆さんに限らず、どの世代もそうなのではないでしょうか。 世の中はどんどん進化していくけど、“なんか違うんだよな、なんか違うんだよな”と思いながら生きていくことが多い。不満足度みたいなものが上回っているから、我々の世代はまだしも、若い世代は特に生きづらいだろうなと想像します」 ――最後に人生の先輩として、何か解消法やアドバイスがあれば教えてください。 「コロナ禍以降、世の中に閉塞感が漂い、それが蔓延していますよね。お互いを認め合えないと言いますか…だからなかなか難しいけど、みんな寛容になることじゃないでしょうか。認め合う、許し合う。あと、僕はエンターテインメントの仕事をしていますから、映画やドラマがちょっとしたヒントになればいいなと思っています。カンフル剤になってほしい。“そんなに捨てたもんじゃないよね、人生は…”作品を見た方に、そう思っていただけるとうれしいです」 【渡辺謙 プロフィール】 1959年10月21日生まれ。新潟県出身。1980年、俳優デビュー。1987年、大河ドラマ「独眼竜政宗」で主演を務める。映画「ラストサムライ」、「硫黄島からの手紙」、「沈まぬ太陽」「許されざる者」、「GODZILLA ゴジラ」、ドラマ「わが町」シリーズなど、代表作多数。テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル「生きとし生けるもの」に主演する。 渡辺謙スタイリスト:JB、ヘアメイク:倉田正樹(アンフルラージュ) 衣装協力:BURUNELLO CUCINELLI 問い合わせ先:ブルネロ クチネリ ジャパン株式会社/03ー5276ー8300 (取材・文/橋本達典)
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