競輪の現行ルールと選手の勝負所の間でやむを得ない現実…スタート時の失格リスクと"かんな削り"
トップスピードが必要
岸和田競輪場で6月11~16日に開催されている「第75回高松宮記念杯(GI)」では、好タイムでのレースが繰り広げられている。スピード化する競輪の中で、特にこの大会は時期やバンク特性もあり、タイムが出る。 脇本雄太(35歳・福井=94期)の西日本一次予選2・11Rのタイムは、残り1周が21秒6というもので、凄まじいとしか言いようがない。昨年の平塚ダービー(日本選手権競輪)の準決では風が吹いたこともあり21秒5を出しているが、脇本の進化が競輪界の進化につながってきた。 中田健太(34歳・埼玉=99期)は「これがデフォ」と話した。そして「FIを走っている時と全く違う。GIのこのスピード感に慣れないと話にならない」と続けた。基本的にこうした進化は素晴らしいものだが、対策の面で選手が苦慮していることもある。
Sが重要
「S」は『スタンディング』と呼ばれ、発走機から出る行為にあたる。初手の位置取りが重要になっているため、この技術は武器になる。そんな中、2日目の東日本一次予選2・7Rでは坂井洋(29歳・栃木=115期)が、発走直後の内抜き行為で失格になった。 1番車の坂井は何列も折り重なったS争いの内にいて、外にいる選手を内から抜いてしまった。後ろにいた神山拓弥(37歳・栃木=91期)は「坂井の位置からは外は見えなかったんじゃないかな」と思いやった。 リスクを伴うS争いがあるわけで、選手としては非常に気を使う場面となっている。多少怪しくても、そこで勝負しなければレース展開が一気に不利になりうる時代だ。
かんな削りは暗黙の了解で…
また、『かんな削り』と呼ばれる行為がある。Aという選手の前に入りたい時に、Aの前にいるBの選手の所に外入(外帯線を強引に切って内外線間に進入する)して、そこから車を下げる行為だ。 ルール上、禁止されてはいないものの、かつては暗黙の了解でやらないのが正しいとされてきた。昨今は、後ろ攻めから抑えに行き、突っ張られた時にかんな削りで中団を確保するのが戦術として成り立ってきた。 これは現行のルールへの対策で、悪い!とは言われない。そうされないように内側の選手も踏んでいくことも重要とされてきた。戦っている選手たちの苦悩が感じられる場面でもあり、競輪の難しさでもあると思う。 とにかく今も昔もだが、ルールの中でどう戦うかも競輪の必要な技術。ちょっと分かりづらい面もあるかもしれないが、ファンの方には少しずつでもこうした側面を知ってもらえればと思う。 (文:東京スポーツ・前田睦生記者)