Snow Man「EMPIRE」、名曲に飲み込まれない存在感 クラシックサンプリングが与える効果を考察
2024年8月21日、YouTubeチャンネルにてSnow Manの新曲「EMPIRE」のMVが公開された。こちらは、10月30日にリリースされる4thアルバム『RAYS』に収録予定のリードトラック。同MVは、グループ史上最速で3,000万回再生を突破し、Snow Manの圧倒的な人気の高さを物語っている。 【写真】もはやアート…ラウール「EMPIRE」スペインロケオフショット 最新曲で特に注目されているのは、Snow Manの新たな試みとしてクラシックの名曲をサンプリングした点だ。「EMPIRE」では、全編を通してモーツァルトの「交響曲第25番」ト短調から第1楽章をベースに取り入れており、クールかつ荘厳な世界観が広がっている。 モーツァルトが17歳の時に書き下ろしたこの交響曲は、緊迫感のあるシンコペーションに始まり、同じ音型が繰り返されることでさらなる疾走感や荒々しさを聴き手に感じさせる名曲だ。ちなみに、モーツァルトの交響曲の中で短調の作品は本作と「交響曲第40番」のみで、どちらもト短調で作曲されている。バロック時代からト短調は「哀愁」や「永遠の悲しみ」を象徴する調として多くの作曲家から愛されており、古典派を代表するモーツァルトにとっても“宿命の調”と言われてきた。 Snow Manの「EMPIRE」では、交響曲第25番が内包する悲哀と鮮烈さが、揺るがない信念や徹底した支配力を彷彿とさせる。これらの要素は、「俺たちの帝国を打ち立てよう」と歌う「EMPIRE」の後押しにうってつけだったのではないだろうか。
NEWS、嵐、なにわ男子……クラシックサンプリングの例は他にも
実は過去にも、STARTO ENTERTAINMENT所属のグループがクラシック音楽をサンプリングした作品をいくつかリリースしている。2015年にリリースされたNEWSのDVDシングル収録の「四銃士」では、ラフマニノフが作曲した「パガニーニの主題による狂詩曲」をサンプリング。 レコーディングには指揮・総編曲に西本智実を迎え、発売当時は豪華なオーケストレーションが話題となった。パガニーニの切れ味たっぷりの旋律と、重厚感溢れるラフマニノフのオーケストレーションは相性抜群だ。 冒頭では、冒険活劇らしくミュージカル調の要素を盛り込み、サビからはゆったりとした原曲の旋律を歌のメロディへと大胆に取り入れることで「四銃士」の世界観を雄大に描き出した。NEWSの歌唱力やダンス力、さらにオーケストラの迫力を一気に楽しめるため、当時は珍しかったDVDシングルでリリースされたのも納得の楽曲だ。 また、2017年にリリースされた嵐の16thアルバム『untitled』に収録された「未完」では、間奏でモーツァルトの「交響曲第40番」ト短調から第1楽章のフレーズが引用されている。嵐ファンの間でも確かな存在感を放っている「未完」は、人気絶頂の中でも決して驕ることのなかった嵐の誠実で前向きな姿勢が反映された作品だ。 タイトルをあえて「未完」とすることで、嵐としてのさらなる伸びしろを示唆させた楽曲でもある。王道のEDMサウンドが展開する中、突如現れる「交響曲第40番」の有名な旋律がアクセントのように楽曲の雰囲気を引き締めてくれる。 続くヴァイオリンの旋律は重めのビートと見事にマッチし、モダンな雰囲気と優美さを絶妙に融合させている。また、この交響曲を聴いて影響を受けたシューベルトが、のちに「交響曲第7番」として「未完成」を作曲しているのも、時代を超えた不思議な縁を感じさせて非常に興味深い。 さらに、2024年6月12日にリリースされたアルバム『+Alpha』に収録されているなにわ男子「NEW CLASSIC」では、ヴィヴァルディの「四季」から第1番「春」のテーマが登場する。誰もがよく知る美しい旋律は一瞬で春の爽やかさを舞い込ませ、AOKI「フレッシャーズフェア」のCMソングとしてもぴったりの雰囲気を演出している。 この楽曲の素晴らしいところは、冒頭の1フレーズで「この曲知ってる!」と思わせておきながら、最初から最後までなにわ男子の楽曲として成立している点だ。今や、王道のJ-POPを歌い続けられる数少ないアイドルとして、独自の路線を確立している。 ここまで、クラシックをサンプリングした楽曲について紹介してきた。全楽曲に共通して言えることは、名クラシックのサンプリングが楽曲の個性を引き出しているのは前提として、良い意味でそれぞれのグループが主導権を楽曲に奪われない強さがあるということだ。 クラシックの名曲は、一度聴けば忘れられないほど強烈な魅力がある。したがって迂闊に手を出せば、その魅力が時にアーティストを飲み込み、誰の楽曲か分からないという状況になってもおかしくない。しかし、今回紹介したような楽曲は、それぞれのグループの色が常に音楽の核として存在しているため、名曲とも対等に渡り合うことができている。これは同事務所のグループ、そして彼らを支える制作陣が長年にわたって積み重ねてきたプロデュース力の勝利といっても過言ではないだろう。 「EMPIRE」を通して、アーティストとしての底力をありありと見せつけたSnow Man。グループの新たな魅力を開拓したリードトラックを前に、最新アルバム『RAYS』への期待値は高まるばかりだ。
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