水夏希、加藤将、秋沢健太朗ら出演 韓国オリジナル演出版『HOPE』開幕レポート到着
そんな作品で躍動した日本人キャストの面々が、それぞれに魂のこもった演技で舞台に生きているのも頼もしい。その筆頭、エヴァ・ホープ、「HOPE」役の水夏希は、予定されていた涼風真世の体調不良による降板を受けて、極めて短期間に開幕からほぼ出ずっぱりに近いタイトルロールを演じることを決断した、その役者魂にただ頭をたれるばかりという状況のなかで、まさに魂を燃やした熱演を披露している。 元々極めてストイックな、謂わば求道者型の演技者だが、78歳という劇中の年齢、しかも筆舌に尽くし難い苦難の人生を送ってきた人物を、少しも飾ることのないビジュアルで作りこんだだけでなく、過去の「HOPE」と舞台上でシンクロしていく折々には、そのビジュアルのまま、まるで少女のような表情も浮かんでくる芝居力に感嘆した。シニカルな表現のなかにどこかユーモアがこぼれるのも効果的で、このオリジナル演出版日本初演を水が担った勇気と気概に感謝したい。年年歳歳蓄えてきた歌唱力の充実も「HOPE」が辿る運命の表出に寄与していた。 もうひとつ、スウィングの橘未佐子が「HOPE」を演じる機会を得たことも、コロナ禍以降、日本でもその重要性が高まるばかりのスウィング制度に敬意を払う貴重な機会になったと思う。 その「HOPE」が守り続ける原稿の擬人化「K」は加藤将と秋沢健太朗のWキャストで、更にプレビュー公演初日はスウィングの横山達夫の出演だったが、人懐っこい笑顔と軽やかさのある台詞回しが、劇中唯一と言ってもいい「HOPE」の味方である「K」の存在を更に印象づけていて、作品に救いとなる爽やかな風を吹かせ立派なもうひとりの「K」として、ここでもスウィングで参加の俳優の確かな力量を感じさせた。 またプレビュー公演2日目の17日に初日を迎えた秋沢は、映像や2.5次元作品を中心として舞台での大活躍が続いている俳優だけに、得意分野に違いない原稿の擬人化である「K」どう演じるかに注目したいし、大阪公演から参加の「K」の加藤は、近年ミュージカル界で力を発揮している俳優として上り坂の勢いを感じさせている人だからこそ、個性を生かしたどんな「K」を表現してくれるのかに期待が高まる。間違いなく見比べる妙味の大きいWキャストになることだろう。 「HOPE」の母マリーに原稿を託すベルトの宮原浩暢は、持ち前の高い歌唱力で魅了するミュージカルナンバーの魅力は言わずもがな、芝居面の充実が著しい。特にベルトだけでなく、現実の法廷でも大きな役割があるのがこの作品の要でもあって、そこではベルトとは全く異なる味わいを見せてくれていて、歌手としてだけでなくミュージカル俳優としてもますます貴重な存在になっている。 「HOPE」がなんとか自立しようとしている時期に出会う難民の青年カデルの百名ヒロキは、温かな笑顔とエレガンスを感じる立ち居振る舞い、という日頃の魅力とはまた違った二面性を表出していて虚を突かれたほど。「人間」とは「戦争」とは「業」とは、など様々なことを考えさせられる演技と歌で惹きつけた。現在の法廷でのリアリスティックな表現もいい。 「HOPE」の母マリーの池田有希子は、この役柄を池田が演じるともちろん知っていて客席に座ったにも関わらず、しばし誰だかわからなかったほど、パッションや実存感を感じさせる常の個性を封印した演じぶりを披露。何かにすがっていないと生きていけないマリーの弱さが、つまりは究極のエゴイスティックに通じる残酷さを感じさせる嬉しい驚きが大きかっただけに、現在の法廷での別の役どころとの差異が大きく、このコントラストには是非注目して欲しい。 過去の「HOPE」を演じる井上花菜は、抜群のビジュアルと確かな歌唱力で、加藤同様ミュージカル界期待の若手だが、大役を得てその実力を更に広く知らしめた恰好。8歳の誕生日からはじまり、相当幅広い年齢を担っているが、そのいずれにもきちんとリアルを感じさせた。現在の法廷でいま過去の「HOPE」だった井上が、この台詞を水演じる現在の「HOPE」に投げかけるのか……という、脚本・演出の凄みをキレ味鋭く届けたのも秀逸だった。 そうした現在の「HOPE」の水と、「K」の加藤と秋沢以外が、様々な役どころを演じ分けていくのもこの作品の醍醐味のひとつで、ヨーゼフ・クランツに天才の奇矯を感じさせた白山博基をはじめ、荒木啓佑、りんたろう、和田裕太が様々な役柄で大活躍。 主人公の名前であり、作品のタイトルである「HOPE」が、終幕にもたらすもの、この閉鎖空間から美しい木々と果てしない空がある外の世界へと、ドラマがどうつながっていくのかを是非多くの人に観届けて欲しい。人生のなかで最も必要なものは?を伝えてくれる『Musical「HOPE」THE UNREAD BOOK AND LIFE』が、大阪、そして東京公演で更に大きく羽ばたいてくれることに期待している。 Text:橘涼香 Photo:岩田えり <公演情報> Musical『HOPE』THE UNREAD BOOK AND LIFE 演出:Lupina Oh 音楽監督:福井小百合 【出演】 水夏希/ 加藤将(Wキャスト)・秋沢健太朗(Wキャスト)/ 百名ヒロキ・井上花菜・池田有希子/ 宮原浩暢(LE VELVETS) 荒木啓佑・白山博基・りんたろう・和田裕太 Swing:横山達夫・橘未佐子・丸山真矢 ほか 【大阪公演】 日程:2024年3月20日(水・祝)~24日(日) 会場:梅田芸術劇場シアタードラマシティ 【東京凱旋公演】 日程:2024年3月27日(水)~31日(日) 会場:I'M A SHOW