原付免許で125ccに乗れる……と喜ぶのはちょっと待て! いま売ってる125ccには乗れない「新基準原付」はユーザーメリット「ほぼゼロ」の改正だった
原付の免許で125ccに乗れる!?
2023年の暮れあたりから「原付免許(もしくは普通自動車免許)で125cc以下のバイクに乗れるようになる」という話が広まっている。これは警察庁が、現在は排気量50cc以下としている原付一種モデルの基準を「125cc以下」へ改めることについての検討会の報告書を出したことが大いに影響している。 【画像ギャラリー】原付一種が125cc以下となっても原付一種が走れない道は変わらない! 道路運送車両法では、原付免許もしくは普通自動車免許で運転することのできる第1種原動機付自転車(原付一種)について、エンジン排気量を50cc以下とすることを定めているが、そこを改正して125ccまで排気量を拡大した「新基準原付」を誕生させようというのが報告書の結論といえる。 とはいえ、もし原付一種の排気量が125cc以下になったからといって、従来からの125cc以下のバイク(第2種原動機付自転車、いわゆる原付二種)を原付免許で運転できるという意味ではない。そのあたりが周知されていないため、冒頭のような「誤解」が広まっているといえる。 現時点での情報を整理すると、原付一種の規格を排気量と最高出力というふたつの条件で定めるのが「新しい原付」であり、具体的には排気量125cc以下、最高出力4kW以下を新基準原付とするという風になっている。 市場にはさまざまな原付二種バイクが存在しているが、空冷エンジンを積むホンダ・スーパーカブ110であっても最高出力は5.9kWもある。同じホンダの水冷エンジンを積む原付二種スクーターPCXの最高出力は9.2kWとなっている。最高出力4kWというのは、いま売られている原付二種のスタンダードからすると、かなり絞った基準といえる。 つまり、既存の原付二種モデルを原付免許や普通自動車免許で運転できるようになるというわけではないのだ。 理由はクルマの世界と同様に環境対策 こうした新基準原付が求められる背景には厳しくなる排ガス規制がある。 一般論として排ガス規制をクリアするにはエンジン本体での燃焼制御とキャタライザーを軸とした排気側での処理が必要となる。いずれにしても小排気量エンジンでクリアするのは難しく、50cc以下の排気量では、2025年11月以降に適応される次の規制を満たす車両を開発するのが困難というのが、業界のコンセンサスとなっている。 しかしながら、講習だけで取得可能な原付免許で乗れる原付一種バイクを日常の足としている国民は少なくない。このまま原付一種バイクが消えてしまったら、国民の移動権を奪ってしまうことになる。そこで新しい排ガス規制をクリアしつつ、原付免許で乗れる規格として最高出力を4kWに制限した「新基準原付」が誕生する(であろう)というのが現在の流れだ。 原付一種の排気量アップは排ガス規制をクリアするためだけといえる。そのため、新基準原付となっても公道での制限速度が30km/hであることや、一部交差点での二段階右折、ふたり乗りの禁止といった部分は変わらないと予想される。速度制限が変わらないのだから、原付通行禁止の標識にも従わなければいけないだろう。 なので、ユーザーからすると積極的に新基準原付に乗り換えるメリットはないといえる。排気量が増えたことで発進性が向上するなどのメリットはあるだろうが、排ガス規制クリアのコスト分だけ車両価格も上がるであろうからだ。発進性に限っていえば、定格出力0.6kW以下に制限される電動の原付一種バイクのほうがスーッと加速できるだろう。 情報を誤解したユーザーは、法改正により新基準原付が生まれれば中古の原付二種バイクに原付免許や普通自動車免許で乗れるようになると思っているようだが、それは無免許運転となってしまう。あくまでも最高出力が制限された新基準原付に限り、125ccのバイクを乗ることができるという話であることは留意したい。 仮に法改正の中身をしっかりと把握しておらず、悪気がなかったとしても、無免許運転をしてしまうと、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という厳しい刑罰が待っている。いわゆる免許の点数といわれる行政処分においても25点が基礎点数となるし、前歴0回であっても運転免許の取消・欠格期間が2年になってしまう。 なお、相手が原付免許であることを知っていて原付二種バイクを貸した場合も「無免許運転幇助」として同等の罰則が課されるので、しっかりと法改正の行方についてはウォッチしておきたい。
山本晋也