カルテル問題の”温床” 損保4社「政策保有株」ゼロへ 専門家は「株式市場には望ましい方向に」【WBS】
損害保険大手4社による保険のカルテル問題で、損保4社は不正の温床と指摘されていた「企業との持ち合い株」をすべて売却すると発表しました。多くの日本企業に広がる「持ち合い株」には、どんな課題があるのでしょうか。 2月29日、業務改善計画を提出したのは東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社。そのきっかけになった不祥事とは、業者が企業や自治体との保険契約で保険料を事前に調整していた保険のカルテル問題です。
問題の背景には、損保各社が顧客企業と株式を持ち合う政策保有株の存在があります。政策保有株とは、取引先との関係強化のために保有する株式のことです。損保各社が顧客企業の株式を持ち合うことで、もたれ合いが生まれ、健全な競争が阻まれているとされています。 金融庁は去年12月、4社に業務改善命令を出し、問題の原因にこの政策保有株があると指摘しました。それを受けて、各社が29日提出した改善計画では、今後、政策保有株をゼロにする方針が明記されました。併せてカルテル問題などの責任として、経営陣の報酬カットなどの処分が発表されました。 経済界からは「政策保有株をゼロにしていくことは、今の企業のありようが世界に評価されるための大きな一歩」(「経済同友会」の新浪剛史代表幹事)との声が上がりました。
「政策保有株」とはどんな銘柄?
今回、損保各社が売却することになった政策保有株。実際にどんな企業の株を保有しているのか、各社が公表している有価証券報告書をもとにまとめました。 去年3月末時点の保有金額ベースで上位3位を見ると、自動車メーカーや商社などが並んでいます。ただ、損保各社は様々な企業の株を保有し、4社を合わせると6兆5000億円規模に上ります。この大量の株を一気に売却すると株価が下がる懸念があるため、時期を分散して段階的に売却するとみられています。 実はこの政策保有株は1960年代から広まり、損保会社に限らず多くの日本企業の間で行われている商習慣です。多額の政策保有株について立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は、企業の成長の面から見てもデメリットがあると指摘しています。 「大企業同士の持ち合いだけではなくて、大企業が取引先の中小企業に持ち株会に参画してもらう形で政策保有をしてもらうケースもあるので、政策保有株は大企業同士だけではなく中小企業にまで広がっているのが日本の実情」(田中教授) 日本企業に広がる政策保有株。上場企業の持ち合い株は総額100兆円に上るとの試算もあります。持ちつ持たれつという日本特有の慣習には海外の投資家から批判もあります。 「最大の論点は資本の効率性が低下する恐れがあるところ。機関投資家から見ると、企業の余剰資金は、より収益性の高い成長事業に投資するか、あるいは株主に還元するということをやってほしい。政策株式の解消をするのであれば、株式売却による代わり金でいかに収益性の高い成長事業に投資できるのか。あるいは株主還元をするのかというところ。これまで海外投資家から批判を浴びてきたわけだから、株式市場には望ましい方向になってくるのではないか」(田中教授) ※ワールドビジネスサテライト