同人誌を完成させるため、基本を無視してゴーする

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、子の字さんが2024年2月25日に開催されるCOMITIA147で頒布予定の『9年間同人誌を落とし続けた自称同人漫画家が漫画を完成させる話』をピックアップ。 【漫画】何度も失敗しているのに、同人誌を描きたい気持ちが消えてくれない作者の様子に「この作品を作ってくれて本当にありがとう」の声 1月29日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、5,500件を超える「いいね」や共感コメントなどの反響が寄せられた。本記事では、子の字さんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。 ■漫画家になりたいわけではない…でも、同人誌を出したい気持ちは消えなくて この漫画は、これまで数えきれないほどの同人誌を落としてきた作者が、作品を完成させる話である。※同人誌を落とす=締め切りに間に合わず本が出せなかったこと 作者は同人誌が完成しない理由として、“時間がない”“キャラクターがつくれない”“ストーリーを作れない”などを挙げる。そして、これまではそれらの様々な理由でギブアップ。同人誌を描こうとしてもいつも完成できないことに苦痛を感じることも多かった。 そもそも“漫画家になりたい”というほど大きな夢があるわけでもない作者にとって、同人誌は描かなくてもいい存在だった。このまま同人誌を完成できなくても生きていく上で全く問題ないのだ。 それはわかっているのに、なぜか作者の心の片隅で“それでも同人誌を出したい”という気持ちが消えてはくれない。なぜそんな気持ちが消えないのか理由もわからないまま、“知らない自分”に突き動かされて、またペンを握ってしまうのだ。 そんな気持ちの赴くままに、今回の漫画は完成を迎える。なぜ同人誌を描きたくなる衝動が消えないのか、今でも明確な理由はわからないが、描き終えた瞬間の光景はとても眩しくて…。これからも作者は言葉にできない衝動に身を委ねながら、きっとまたペンを握るのだ。 ■作者・子の字さん「これでやっと一歩を進めたかな」 ――『9年間同人誌を落とし続けた自称同人漫画家が漫画を完成させる話』を創作したきっかけや理由などをお教えください。 きっかけの始まりはX(旧Twitter)で「漫画を描くためにはまず完成させることが重要」という話題に疑問をいだいたことです。 「そんなことを言っても描けないんだからしょうがないじゃん」と、X(旧Twitter)に書き込もうとしたんです。 ただ、文章では角が立ってしまうと思い、投稿の下書きをプロットに使い漫画を描くことができるのではとひらめいて、1ページ漫画を描きました。 描いてみたら、これまで描けなかった漫画をそのままにするのは勿体無いと感じ、本の長さにできる漫画の1ページとして活用しようと思ったことが漫画を描き始めた理由です。 描き始めたときは自分が漫画を描いたという事実を作りたいという自分のためでしかない目的だけで、読んだ人がどう思うかを考えずにいました。 読んだ人に「こんな感じでもいいんだ」と元気をもらってほしいという思いは描いている中で生まれてきました。 ――本作を描く上で、特に心がけたところ、大切にしたことなどをお教えください。 第一にしたことはとにかく完成させることです。 線がはみ出ていたり、塗り残しがあったり、ねこが不細工になってしまったり、絵の雑なところがあっても気にしないことにしました。 元々こだわってしまうタイプですが、この漫画を読んだ人に「こんな感じでも漫画だといっていいんだ」と思ってもらうため、と自分に言い聞かせて絵を描きしました。 描き始めたきっかけは「漫画を描くために完成させることが重要」ということへの反発心でしたが、一方でその価値観をかなり自分は内面化していて世の中の漫画を読むたびに「この漫画は完成できていてすごい。自分にはできないことをしている」と劣等感を感じ苦しく思っていました。 自分の漫画を読んで「漫画はこんなふうに手抜きをしてでも完成としていいんだ」と読む人のヒントになるような作品にすることを大切にしました。そういう視点でも読んでいただけたらなと思っています。 ――タイトルに“9年間同人誌を落とし続けた”とありますが、本作が完成したときの感想をお聞かせいただけますでしょうか。 漫画のねこと同じように眩しい気持ちでした。同人誌を完成できなかったこれまでの9年間、応援してくれた人や楽しみにしてくれた人たちがたくさんいて、それなのに期待に応えられなかったことへの後ろめたさがずっとありました。これでやっと一歩を進めたかなと。 「次回作にご期待ください」というラストにすることを最初に決めていたので、終盤から完成にかけては「期待に答えられるような漫画を未来の自分は描けるのだろうか」という悩みもありました。全体的に描いている時の気持ちは描いているねこの感情とかなりリンクしていたと思います。 ――X(旧Twitter)投稿には、多くの“いいね”とともに、「同人誌には縁がない」という読者からも共感のコメントが寄せられていました。今回の反響をどのように感じていらっしゃいますか。 描き始めたきっかけは自分のためだけだったこともあり、批判の声が多く寄せられるかと思っていたので驚きました。 やってみたいけどうまくいかないことに悩んでいる人を少しでも勇気づけることができたらと公開したので、様々な方に受け止めていただけて本当によかったです。 自分の漫画を受け止めてくれる方がいることに私も勇気をもらい、自分の漫画に共感してくれた人たちを裏切らないような活動をしていきたいと感じました。 ――今後の展望・目標をお教えください。 頑張りすぎず、無理せず、作品を作り続けることです。みてくれている方々が喜んでくれる作品を自分も楽しみながら地道に作りたいと思います。 自分の制作ペースをつかめるようになってきたので漫画合同誌への寄稿や、小説などの挿絵・装画イラスト担当など人と共に一つのものを作ることをしてみたいなあと思っています。 ――最後に、読者やファンの方へメッセージをお願いします。 作品だけでなくインタビューも読んでくださって本当に本当にありがとうございます。 できなかったこと、諦めていたことでも、時間が経ってふとできるようになることがあるので、何かができないことを苦しまないでいてほしいと思います。 皆さんの夢が叶う道がいつか見つかるようにと心から祈っています！