話題のA24新作映画『シビル・ウォー』アレックス監督×小島秀夫監督対談。フィクションに迫る現実の恐怖、映画版『デススト』についてのコメントも
2024年10月4日(金)より映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が日本公開される。 【記事の画像(8枚)を見る】 舞台は連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が展開されている。大統領に単独インタビューを行うため、ニューヨークを発ったジャーナリスト視点で物語が描かれる。独創的な世界観の作品を多く展開して映画ファンを魅了してきたA24制作の最新作で、全米では4月に公開され興収が2週連続1位の大ヒットとなっている。 日本公開にあたって、同作の監督・脚本を務めたアレックス・ガーランド氏と、『DEATH STRANDING』(デス・ストランディング)や『メタルギア』シリーズで知られる小島秀夫氏による対談が実現。フィクションのなかで描かれる戦争や戦闘についてのそれぞれが思うこと、現在製作が進行中である映画版『DEATH STRANDING』について語った。 左から、アレックス・ガーランド氏、小島秀夫氏。 小島秀夫(コジマ ヒデオ): 1963年東京都生まれ。ゲームクリエイター、株式会社コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた『メタルギア』で、ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開く。ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。独立後初作品となる『DEATH STRANDING』ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥなど、世界的名優たちを起用。同作品の実写映画化も決定している。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンタテインメントへも、創作領域を広げている。 アレックス・ガーランド: 1970年イギリスロンドン生まれ。小説家、脚本家、映画プロデューサー、映画監督。ダニー・ボイル監督のSFホラー映画『28日後...』で脚本家デビュー。初の監督作である『エクス・マキナ』では第88回アカデミー脚本賞にノミネートされた。ゲームの分野では『ENSLAVED ODYSSEY to THE WEST』や『DmC Devil May Cry』の脚本を務めた。10月4日より公開の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では監督・脚本を担当。 本当に起こるかもしれない、アメリカの未来を描く ――まず小島監督から、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の感想をお聞かせください。: 小島: アレックスとは交流があって、以前から本作の制作過程についていろいろと話を聞いていました。アメリカで大ヒットしているのはとてもうれしいです。 僕はずっと前からアレックスのファンで、彼が手掛けるSFや近未来、ポストアポカリプスものといった世界観を見てきました。そんなアレックスが、アメリカの内戦をリアルに描く作品を作ったことに関しては、じつはけっこうショックを受けました。映画としておもしろかったのはもちろんなのですが、そういう時代になったのかなと、恐怖感がありました。 アレックス: そういう時代になったというのは本当におっしゃる通りです。フィクションとして頭の中で考えるどんなストーリーよりも、いま世の中で起きていることに不安を覚えますし、非常に深刻な事態だと思っています。 人類が近い将来こうなるだろうという問題を特定するのは得意なのですが、それを防ぐのはどうしても難しくて。世の中で起きている分断や戦争、地球温暖化。これらが現実に起きていること、これから起こりうることだとわかっているのに、何もできない。まるで向こうから津波がやってくるのをただ眺めていることしかできない、そんな状態だと思うのです。 小島: アレックスや僕らが少年だったころのSFは、地球温暖化などのテーマはよく取り扱われていましたけど、それはもう現実になっています。分断もそうですし、紛争も終わりません。 ただ、そのスタンスはSFの形を借りて、これから起ころうとしていることを伝えようとしたエンタメだったんです。それに現実が追いついてきて、アレックスも本作では現実を描こうとしている。いままでのエンタメのリズムが大きく変わりつつあるのかなと思いましたね。 また多くのアメリカ人は、アメリカでは内戦は起こらないと考えていると思うんです。そんな内戦をテーマとした作品をイギリス人のアレックスが作ったというのは、特別な意味があるんじゃないかと。 アレックス: とあるシーンの撮影中に、エキストラのひとりがアメリカ国旗を地面に置いたことがあって。それを見たスタントマンが「とんでもないことをしている」と怒ったんです。そこは国旗を地面に置いて撮影するシーンだったので、僕は意識していなかったのですが「なるほど、こういう人もいるのか」と気づかされました。 愛国心的な部分に神経質になっている。そういう人たちにとっては、アメリカにおいて内紛や内戦が起きるというのは想像がつかない、というのが現在の状態なんだろうなと感じますね。 また、現在のアメリカは、何となく不安を感じているのに、それが何なのか、どういうことをもたらしうるのかが定義付けできていない状態なんだと思います。 たとえば、僕が脚本を執筆して誰かに見せると、さまざまな意見や批評が寄せられます。その内容を見ると、意識下ではそう思われるだろうとなんとなくわかっていたはずなのに、いまいち把握できていなかったということがよくあります。このような意識の二重構造が起きているんじゃないかなと。 リアリティを追求し、混沌と化した戦場を表現 ――本作で印象に残ったポイントはありますか?: 小島: 観客は主要人物であるジャーナリストの視点でついていくわけですが、戦場がとにかく混沌としている。ふつうはAとBが戦っていたらフロントラインが存在するんですが、それが曖昧でどこから弾が飛んでくるのかもわからない。 『プライベートライアン』のオマハ・ビーチへの上陸シーンを最初に観たときのような、自分も撃たれるんじゃないかと思わされる演出でした。また、決戦時の音もとくに印象に残っていますね。 ――アレックス監督が本作で戦場を描くうえで苦労された部分はありますか? アレックス: 映画作りで難易度が高いのは、リアルに起きていることを現実ではないフィルムというメディアに、どうやって表現するかだと思っています。銃弾を撃たれる側が感じる風圧や、排莢されたシェルが頬に当たったり服の中に落ちることで感じる熱さだったり。触覚的に体感することをどのように観客に味わってもらうのかがむずかしいですね。 小島: 『メタルギア』シリーズ制作時にずっと戦闘訓練していたので、僕も実際に薬莢で火傷してしまったこともあります。本作のあるシーンを見たときにSWATの突入訓練に同行したときを思い出しましたね。すごい臨場感だった。 アレックス: リアリティにはとてもこだわっています。たとえば、ものすごい威力の銃が発砲されたとき、そのインパクトの描きかたには、映画的な文法があてはめられます。撃たれた人の体が吹き飛んで、血しぶきが上がるみたいな。 実際は、銃弾が体を貫通して撃たれた人がそのまま倒れるというのが現実ですよね。今回は現実を描きたかったので、あえて映画的な文法を避けて描くようにしました。実際に人が撃たれるさまを見たことがなくても、「これはリアルだな」と感覚でわかると思います。 小島: リアルとフィクションのバランスでいうと、実際の特殊部隊が使用している戦術などは、防衛上の理由などで作品で扱えるものと扱えないもののラインが存在します。このあたりの調整が難しいんですけど、本作ではどうでしたか? アレックス: 蛍光スティックを投げて進む先を指定するシーンなどは、実際の戦術を元にしていますが映像にするかどうかは議論しましたね。小島さんのゲームでは、いろいろな戦術を詳細に見せていると思いますよ。 小島: ゲームで表現するにも、半分くらいはフィクションを入れないといけないんですよね。 A24と組んで挑む、映画版『DEATH STRANDING』 ――『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の製作配給会社はA24です。A24はこれまで多くの独創的な作品を展開してきましたし、映画版『DEATH STRANDING』にも関わっています。このあたりのお話も伺えますでしょうか?: 小島: 『DEATH STRANDING』の映像化に関しては、自分が監督をする気はありませんので、プロデューサーとプロットなどで携わっています。お声がけいただいていたほかの映画会社からオファーは「大予算で派手に爆発させて……」みたいな意見が多かったのですが、それはいやだなと。A24といっしょに、ちょっと違った映画を作りたいと思っています。 アレックス: 賢明な判断だと思います。A24と小島さんが組むのはいいマッチングですよ。 小島: A(August)24は、僕の誕生日なのでね(笑)。時間はかかりますが、いい感じになると思います。でも今回アレックスが 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を大ヒットさせたから、A24が(『DEATH STRANDING』の)予算を上げて大規模なものにしている気配を感じるので、それをどう抑えようかといったところです。 ――なるほど(笑)。アレックス監督は、A24と関わってみていかがでしょうか? アレックス: ハリウッドのような大きなスタジオとの仕事とは大分違いますね。決して悪く言う意図はありませんが、古くから続く大きなスタジオとの仕事は、いわゆるビッグビジネスなので、クリエイターにとってはちょっと窮屈な部分もあるんです。A24は、僕たちのような監督やクリエイターが自由にやらせてもらえるし、彼らのことは完全に信用できます。 ――アレックス監督、小島監督。本日はご対応いただきありがとうございました。 インタビューの最後に、アレックス氏は「僕は1970年生まれなので、ゲームとともに育ちました。昔のベーシックなゲームから始まり、そこからずっと遊び続けています。」とゲームプレイヤーに向けてのメッセージも残してくれた。映画というフィクションで、本当に起きるかもしれないリアルを描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。ぜひ劇場でチェックしてみてほしい。 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 作品概要 2024年10月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 STORY: 「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」 連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている――」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー CAST: リー・スミス:キルステン・ダンストジョエル:ワグネル・モウラジェシー・カレン:ケイリー・スピーニーサミー:スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンアニャ:ソノヤ・ミズノ大統領:ニック・オファーマン STAFF: 脚本・監督:アレックス・ガーランドプロデューサー:アンドリュー・マクドナルド撮影監督:ロブ・ハーディプロダクション・デザイン:キャティ・マクシー編集:ジェイク・ロバーツ音楽:ジェフ・バーロウ音楽:ベン・ソーリズブリー 配給:ハピネットファントム・スタジオ