HYDE「太っていくロックアーティストにはなりたくない」“誰のこと?”と物議。ルッキズムの縛りがキツい日本ならではの発言
若いキラキラしていた頃にすがってしまうのは健全なのか
もう一点は、元WANDSの上杉昇のように、細かった若い頃よりも恰幅(かっぷく)の良くなった今のほうがカッコいいパターンもあり得るのにレアケースとなってしまう問題です。みんな自分が一番キラキラしていた時代にすがってしまうのは、あまり健全だとは言えません。 HYDEも、30年近く変わりません。その変わらなさに費やす努力には敬意を表しつつも、同時にどこか不自然でもある。 この点については海外でも同じです。2023年のグラミー賞でのマドンナの顔に驚きの声があがったのは記憶に新しいところ。顔の整形や豊胸手術を疑う声が続出しました。 英テレグラフ紙のコラムニスト、アリソン・ピアソンは「年齢なりにかっこよく見せようとすることは素晴らしい。25年前の自分を再現しようとするのは、ただ異常なだけだ」(The Telegraph 2023年2月8日 筆者訳)と論じていました。 ここまで極端ではありませんが、イメージをキープするHYDEも同じベクトルにあるのではないでしょうか。
その年齢なりのカッコよさが機能するのが生きた音楽
晩年、フランク・シナトラ(1915-1998 アメリカのジャズ歌手 代表曲「マイ・ウェイ」「ニューヨーク、ニューヨーク」など)のラスベガスのコンサートでは、かつての“少女”たちが「フランク、あんたまだイケてるわよ!」と歓声をあげていたそうです。 当然、シナトラはお腹も出て、“少女”たちもちゃんと年老いている。にもかかわらず、その年齢なりの、カッコよさや憧れが機能している、それが生きた音楽なのですね。 太っていくロックアーティストにはなりたくない。 HYDEが彼なりの美学を率直に語ったことに疑いの余地はありません。尊重すべき考え方です。けれども、そうした価値観が偏(かたよ)ったカッコよさを生んでいないだろうか? そんな問いかけも含んでいるのです。 <文/石黒隆之> 【石黒隆之】 音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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