「世界記録保持者もこんなに苦労するんだ…」女子ハードル田中佑美(25歳)がパリで感じた“世界との距離”「決勝はもう一段階、上の実力がないと」
準決勝で感じた「新しい技術」と可能性
そこで田中が考えたのは、彼女と同じテンポ、リズムでインターバルを刻むことだった。 「単純にインターバルを同じリズムでタンタンって刻めば同じ速度になるじゃないですか。それで脚を回そうとしたのですが、その瞬間にグーンと一気に離されてしまって。『なんだと…!? 』って思いながら走っていました(笑)」 田中は、脚を回すことに気を取られて腰の位置が落ちてしまい、結果的にスピードがダウンしていた――と分析する。 「レース後に谷川(聡)コーチに言われたのは、脚をスカスカと回していて、地面の力を上手に受け止められていないのだと。私はアキレス腱が人より硬いので、それに甘えて身体全体をバネのように使って地面からの反発力をもらう走りができていなかったようです。私がまだできる技術ではなかった……と。その走りをもう一度見つめ直して、それができるようにならなければ『彼女との差は埋まらないよね』と話しています」 だが、その差を決して悲観的に捉えているわけではない。パリ五輪は収穫こそあれど、大きな後悔はまったくないという。 「こうしておけばよかったという後悔なく終えられる試合って滅多にないんです。もちろん全然足りないという現実も知ったし、次はこうしたいという課題もありますが、それがマイナスではなくて前向きなモチベーションになっています」 振り返れば、昨年のブダペスト世界選手権後は「やりたいことがまったくできなかった」と後悔ばかりを残していた。しかし、パリのレース後は悔しさを滲ませつつも、実に清々しい表情を浮かべていた。1年前とは、メンタリティが大きく変わったように見受けられる。 「ブダペストは他所のお家に『あ、お邪魔しま~す』みたいな感覚だったんです。『皆さん、速いですねぇ』と、あまり自分がその輪の中にいる実感が得られなくて。でもパリは自分も参加したなと思えた大会でした。失敗した自分も、丸ごと受け入れるチャレンジをしようという気持ちを持てていたのが大きかったのかもしれません」 パリから1カ月半後、全日本実業団選手権では12秒83の自己ベストをマーク。 本人は「微々たるものなので物足りないですが……」と言うが成長しているのは事実。12秒7台も、条件さえ揃えば狙えるという手応えを得られたシーズンだった。
東京世界陸上では「成長できたところを見つけたい」
来年9月に控える東京世界選手権。 参加標準記録は12秒77から12秒73に引き上げられた。代表の3枠をめぐる争いは、さらにハイレベルなものとなるだろう。 「正直、個人的には東京だから特別っていう思いはないんです。でも世界選手権という舞台でまたチャレンジしたいですし、前回よりも成長できたところを見つけたい。自国開催というまた違うプレッシャーがかかるとは思いますが、それをしっかりはねのけて、パワーに変えていきたいです」 満員の国立競技場のスタートラインに笑顔で立つために。 新たな挑戦の一年が始まっている。
(「オリンピックPRESS」荘司結有 = 文)
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