【ふくしま創生】廃校で「最強ガット」 旧福田小(川俣町)に製造拠点 にぎわい創出へ工場見学や教室も
廃校が世界に誇るバドミントン用品の製造拠点に生まれ変わる―。CRSスポーツ工業(埼玉県)などは9月にも、福島県川俣町羽田の旧福田小で高強度の先端素材「カーボンナノチューブ(CNT)」を使用したラケット用ガットの製造に乗り出す。世界最高峰の強度を武器に、国内外のトップアスリート向けに輸出する。これを機に、同社は児童生徒向けの工場見学やスポーツ選手を招いたバドミントン教室なども検討しており、地域のにぎわい創出を後押しする。 佐藤充社長は東京都で生まれたが、父・安男さんが町内飯坂の出身。こうした縁から東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生後、福島県の復興支援を考えてきたという。昨年10月に安男さんが83歳で亡くなったのを機に、県内での操業を本格的に模索してきた。今年4月には飯舘村の廃校を含む2カ所にガット製造工場を設けた。地域の拠点である学校の廃校が相次ぐ中、人の流れやにぎわいを少しでも維持したいとの考えからだ。
CNTは1991(平成3)年に日本で発見された素材。炭素原子で構成されている筒状の繊維で、強くて軽いのが特長とされる。同社は粉末化したCNTをガット表面のコーティング剤に練り込む独自技術を開発した。同社によると、ガットにナイロンを塗布した従来品に比べ2・4倍の耐久性がある。製品化に向け昨年春から試作を重ねてきた。既にバドミントンの中国代表が試験的に採用し、高い耐久性と反発性などが確認されたという。 製造は同社の関連企業ナミック(東京・山下楠美子社長)が担う。廃校内にガットの編み上げ機約40台を設置する。月産6万張りから始め、2025(令和7)年6月までに機器を150台程度まで増やし月産60万張りを目指す。製品は国外の大手バドミントン用具メーカーに出荷する。町内進出に伴い、20人余を新規雇用する方針だ。 編み上げ工程を児童生徒向けに公開する他、職業体験の機会なども提供し、ものづくりへの興味関心を高めてもらう。スポーツ選手とのつながりを生かし、講演会や競技力向上のための教室開催も想定している。
県内では被災地などで人口減少が大きな課題となっている。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、川俣町の人口は2020年は1万2170人だったが、2050年には5072人になると推計されている。佐藤社長は「人々が集い、交流できる場所をつくりたい」と前を見据える。 ◇ ◇ 同社と町は26日、企業立地と廃校の利活用に関する基本協定を結んだ。締結式は町役場で行われ、藤原一二町長は「産業発展や交流人口の拡大につながる」と期待を述べた。旧福田小は町内の小学校再編で、2022年3月末に閉校した。