岩合光昭と角田光代が、初の対談。「猫のかわいさの“後ろ”にあるものを写し留めたい」「猫は、使者」
ふたりが出会った世界の猫
――岩合さんは世界中で猫を撮影されていますが、自然や文化が違うと猫も違うものでしょうか? 岩合 答えは二つですね。猫はやっぱり猫なんだと思います。でも、人もそうですが、猫も環境によって変わってきます。フランスの猫はやっぱり個性的だし、イタリアのオスの猫は目立つところにいるんですよ。 角田 ミャンマーに行った時、仏教の教え──小さいものに親切にすると、来世で良く生まれる──からなのか、みんなが猫ちゃんを大事にしていたんです。まだ小さなお坊さんなのに、托鉢でもらったご飯をちょっとだけ猫に分けてあげる。自分だってお腹が空いているだろうに、と泣けてきました。 岩合 角田さんは割と泣きますね。 角田 私は泣きすぎなんです。道を歩いていても、ふと、トトが死んだらどうしよう、と思っただけで泣いています。 岩合 それだけ感情が豊かだということじゃないですか? 泣いてばかりいたら、生きるのは大変そうだけど。 角田 ただ泣くだけなので、そこは大丈夫です(笑)。
猫は“今”を生きている
猫は「愛」。本当に愛すべきもの。──岩合光昭 猫はどこからか遣わされてきた「使者」。──角田光代 角田 今、トトは14歳なんですが、やっぱり、あと何年くらい(生きられる)かな、と考えてしまうことがあります。 岩合 僕はアフリカに住んでいたこともあって、死はごく自然なこととして受けとれるんですが、動物の死といえば、ある母ゾウを思い出します。死を迎えている母ゾウが、家族が傍に来ると、一瞬立ちあがろうとしました。そして、母ゾウの死後、子どもたちは暗くなるまでずっとその周りを回っていましたね。もう周りには草がないのに、根っこを掘るようにして食べて、その周りにもう食べられるものがなくなってしまうまで。翌朝には、子どもたちはいなくなっていましたけど。動物も死を理解するには時間がかかるのだと思います。そもそも、彼らは「老い」を感じていないですしね。 角田 猫には時間の概念がないから、将来を愁うことはない、不安に思うことはない、と言いますね。猫には「今」しかないのだ、と。そういうのは、見習いたいことですし、私も習得したいと思っています。 岩合 我々も、猫のように生きれば老いを感じなくても済むのかもしれない(笑)。 角田 さっき、野生という言葉が出ましたが、以前は集合住宅の10階に住んでいたので、虫が入ってこなかったんです。ここに越してから虫が入って来るようになって、その虫をトトが捕れるようになったら、トトの自己肯定感が上がりました。でも、蝉を咥えているのを見るのはちょっと……。 岩合 僕は逆に「おぉ、やってる、やってる」と。野生みを感じて、素晴らしいと思います。 ――最後になりましたが、この特集に出ていただいている方みなさんに、「あなたにとって猫とは」という質問をしているのですが。 角田 私にとっては「使者」でしょうか。どこからか遣わされてきた「使者」なんだと思います。 岩合 僕は気取っていうわけではないのですが、LOVE、「愛」という言葉を。猫は、本当に愛すべきものだと思いますね。 岩合光昭(いわごう・みつあき) 動物写真家。1950年、東京都生まれ。近著にネイチャー・ドキュメンタリー写真集『この素晴らしき世界 What a Wonderful World』。X(@lion007)では愛猫のタマとトモにまつわる投稿が大人気。 角田光代(かくた・みつよ) 作家。1967年、神奈川県生まれ。2005年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。近著に『方舟を燃やす』(新潮社)。コロナ禍前に建てた一軒家は愛猫・トトが過ごしやすい工夫が随所にちりばめられている。 K-POP界のレジェンド、ドンヘさん、ウニョクさんをお迎えしたスペシャルインタビュ―、JOさんと愛猫ミントの貴重な2ショット、SNSで話題沸騰中のマンガ『猫に転生したおじさん』作者・やじまさんによる特別描きおろしマンガ&シール付録など、「猫のいる毎日は。」特集は「CREA」2024年夏号でお読みいただけます。
吉田伸子