フリーアナウンサー・神田愛花「芸能人の"前乗り"の実態」
今、京都の鈴虫寺に向かう新幹線の中にいる。9:46品川発のぞみ217号。途中で富士山を見られる進行方向右側のグリーン車10Dの座席に座っている。新横浜駅を過ぎて隣の席に誰も来ないということは、少なくとも名古屋駅までは2席使える。ラッキー。翌日は久しぶりに関西圏の番組のロケ。7:00スタートのため、当日に東京から向かっては間に合わない。なので、前日入りして京都に泊まるスケジュールになった。芸能界ではそれを″前乗り″という。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~33回)はこちら 前乗りについて時々、こんな噂を聞く。若手芸人さんが前乗りをするのは、現地のキャバクラや風俗などのプロのお姉さんたちと関わりを持ちたいから。大物俳優さんが前乗りをするのは、現地のマンションで不倫相手と会うためだから、と。なかなか下世話な噂話だが、きっと本当なんだろうなぁと思ってしまう。 だが私にとって、前乗りは小旅行のチャンス! この紅葉の季節に京都に泊まれるとなったら、ただ寝るためだけに行くなんて私の旅行魂が黙っていない。同行する30代後半のヘアメイクさん、20代前半のマネージャーと満場一致で、「早めに行って京都を満喫しよう!」となり、20歳の年の差を抱えた女子3人で京都小旅行を決行することにした。 スケジュールはこうだ。11:51に京都駅に到着。まずホテルに荷物を預けてタクシーに乗り、約30分で鈴虫寺へ。その後、嵐山まで45分ほど歩きながら景色と会話を楽しむ。嵐山で船に乗って京都に浸り、バスかタクシーで、太秦(うずまさ)で大評判のお好み焼き屋さんに17:30に到着。フワフワのお好み焼きをお腹いっぱい食べた後、ホテルに帰りロケ台本に目を通す。22:00頃就寝し、翌日は4:00起きだ。 ◆夫がきっかけで変わったこと 鈴虫寺の正式名称は華厳寺(けごんじ)。このお寺のお地蔵様へお願い事をすると本当に叶うと有名で、一年中、全国からものすごい数の人がやってくる。一回30分の説法が一日に10回あるのだが、曜日や時間帯によっては説法を聞くまでに2~3時間並ぶ。理系脳の私は、何かをお願いする時は神様派ではなくご先祖様派だった。お姿を拝見することができない神様よりも、自分の目の前で電気ショックに反応せずご臨終になった祖父のほうが、存在をハッキリ認知できていて信じられるからだ。 だが、鈴虫寺の評判を聞いた夫に誘われてついて行き、4000匹の鈴虫がビービーと鳴いている大部屋で、(本当に住職!?)と疑問になるほど面白い説法を聞き、授かったお守りとともにお地蔵様の前でお願い事をして、本当にその願いが叶ったという経験をしたら? それはもう即、ご先祖様派から神様派に鞍替えしても仕方ないでしょう。 その時以来、叶ってはお礼参りし、今回で4回目。すっかり虜(とりこ)だ。ただ説法で必ず、「お願い事はより具体的に1つだけ」と説かれる。今抱えているお願い事からどれを選ぼうか。どのレベルまで高望みして伝えようか。塩梅(あんばい)が難しくまだ決めきれていない。 そして夜に行くお好み焼き屋さんは以前、夫が番組でお邪魔したお店だ。こういう時、私は必ず夫に美味しいお店を教えてもらう。実際に食事をしたことがあるお店が全国各地にある夫への信頼度は120%。おかげでどの地方に行っても、「旅先のディナーで失敗したくない!」からと、既知の味を求めて全国チェーンのファミリーレストランやファストフード店を探す旅から解放された。今では地元のお店での食事も旅の楽しみの1つだ。 さぁここまで書いて、新幹線は名古屋を出発。次はいよいよ京都だ。品川駅で買ったBLTサンドはとっくに食べ終わり、鈴虫寺の列に並ぶためのお腹の準備は整った。あとは今回のお願い事だけ。お仕事で3つ、プライベートで2つ、合計5つある中からいい加減1つに決めなければならない。内容を人に話してしまうと叶わなくなると聞いたことがあるから、誰にも相談できないけれど……(ねぇお爺ちゃん! どれをお願いしたら叶いやすい? 教えて! ……あれ!?)。お願い事をする存在ではなくなり、思いを馳せる機会が激減していたご先祖様に、突然″相談役″という新しいお役目を見つけた。とても晴れ晴れとした気持ちになり、下車に向けて横の座席に散らかした荷物を片付け始めた。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2023年12月22日号より 文・イラスト:神田愛花
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