<書評>『独裁の宴』新しい国際社会の現実を読み解く手引き
手嶋龍一、佐藤優という国際政治を知り尽くした二人が語る国際政治の見方の本である。読み進めるにつれ、北朝鮮問題、ロシア問題などホットな国際問題の急所に切り込んでいるのがわかる。 北朝鮮問題をどう見るかは、日本人にとって最大関心事の一つだが、北朝鮮の「ほほ笑み外交」に翻弄された韓国・平昌オリンピックは、開会式から閉会式まで政治色にまみれた大会となった。米国の武力攻撃はあるのかないのか。本書は大胆な予想も展開されているが、それは読者の楽しみとして明かさない方がいいだろう。 このほか、本書では日本のこれまでの北朝鮮外交の死角やその評価、メディアの報道姿勢なども含めて採りあげられている。北朝鮮の本音は何か、中国の考え方やポジションは奈辺にあるのか。息を呑む国際政治の現実とその解釈が示される。本書を読むと、メディアで解説されている見方が、いかに踏み込み不足なのかがよくわかる。 本書が採りあげているテーマは北朝鮮のほか、トランプ米大統領の主張する「アメリカ・ファースト」の本質、日本に対する見方、米中関係にいたるまで幅広い。加えて、中東、欧州、ロシア、イスラエル、そして日本と個別の国や地域についての深い洞察を行っている。各国・地域が抱える課題や展望などについて、手嶋・佐藤の目を通して喝破しているのが特徴だ。 本書は二人の対談形式をとっており非常に読みやすいが、内容は含蓄が深く、それぞれのテーマごとに、読み手を深く考えさせる仕掛けが施されている。一貫して、国家像や指導者像などを厳しく問う内容になっているが、ここで重要なのは、国際社会は伝統的な解釈手法ではもはや読み解けなくなってきているという現状認識である。本書の後半に詳述されているが、核兵器の暴走や暴発のリスクがゼロでないことを十分考慮に入れなければならないという現実がそれに当たる。核抑止という伝統的な「文法」が通じなくなってきている点は、問題を一段と複雑なものにしている。 ただ本書は、読む人の不安をあおるような本では決してない。現代の国際社会が置かれている状況を冷静に見据えて、適切に対処してゆく必要性を説いている。北朝鮮を巡る情勢が、危険なゲームとも呼べる状況に向かいつつある中で、日本やアメリカはどう対処すべきなのか。短期的、そして中・長期的な対応はどうあるべきなのか。国際政治の新しい現実に向き合うための視座を与えてくれる一冊である。 『独裁の宴 世界の歪みを読み解く』手嶋龍一、佐藤優著 中央公論新社 820円(税別)