パリ五輪の切符をつかみ、笑顔を見せる杉野正尭選手（中央）＝５月、群馬県高崎アリーナ

　パリ五輪体操男子の杉野正尭（たかあき）選手（２５）＝徳洲会＝は鹿屋体育大＝鹿児島県鹿屋市＝入学時、倒立一つをとっても「演技が美しい」とは言い難い荒削りなタイプだった。在学中、寸暇を惜しんで努力を重ね急成長。金メダルを狙う体操ニッポンの今や切り札的存在だ。２７日（パリ時間）の予選で、鹿屋体大体操部初のオリンピアンとして夢舞台に立つ。 【写真】〈関連〉鹿屋体大大学院時代の杉野正尭選手（中央）と、指導した現監督の中谷太希さん（右）、現徳洲会コーチの村田憲亮さん＝中谷さん提供

　三重県出身。兄２人の影響で競技を始め、体操界では「杉野３兄弟」として知られた。長兄の史尭さん（２９）の背中を追い、鹿屋体大に進んだ。 　体操部コーチで現在は監督の中谷太希さん（３１）は「練習量がずばぬけて多かった」と話す。印象に残っているのは、授業の合間や休みに体操場で励む姿だ。 　東京五輪出場を目標に掲げ、当時監督だった村田憲亮さん（４０）＝現徳洲会コーチ＝らをつかまえては練習の補助を頼み、難度の高い技を習得していった。 　「練習の虫」は周囲を動かした。自主練習する部員が増え、全体が底上げされ体操部は強豪校と肩を並べるようになった。「実績も残していた杉野の姿は口で言うより説得力があった。人を巻き込む力みたいなものを持っている」と中谷さん。 　東京五輪は残念ながら補欠にとどまり、悔しさをバネに競技スタイルを見直した。体操選手としては大柄な１７０センチの体を生かしたダイナミックな演技に活路を見いだし、得意のあん馬と鉄棒で大技を磨いた。

　中谷さんは「杉野の派手な演技は、美しい体操が持ち味の日本チームで異端の存在。リスクを恐れず、攻めの体操でパリを沸かせてほしい」と願う。 　団体だけでなく、種目別でも金メダルを狙える位置まで成長した。杉野選手は「大学時代に一流を目指して取り組んできたことが今の自分の基盤」と語る。鹿屋体大からアテネ五輪競泳の柴田亜衣さん以来となる金メダリスト誕生に期待が高まる。