ルメールや武豊はなぜ「鞭の使用制限」に不満を示したのか 蛯名正義調教師は制限の必要性に一定の理解
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、鞭の使用制限についてお届けする。 【写真】ブルーグレーのジャケット姿、馬と顔を付け合せる蛯名正義氏
* * * 今年8月、札幌でアジア競馬会議があり、そこでクリストフ(ルメール騎手)と豊(武騎手)が、ジョッキーの立場から現在の鞭の使用制限について不満を感じることがあると発言して話題となりました。鞭はあくまで「副扶助」で、馬を安全に導くためにも必要だし、馬に対する合図の意味が大きいというところが理解されていない。どうしても最後のマックスのスピードになるところでの使い方だけをクローズアップされてしまう。そこだけをもって回数で制限するのはいかがなものか、ということだと思います。 JRAでは鞭について、肩より上に腕を上げて振り下ろすことや、ひばら(脇腹)や頭部への使用のほか、「過度の使用」などを禁じています。具体的には「2完歩あけることなく、5回を超えてむちを連続して使用すること」が禁止事項とされています。今年から連続使用が「5回まで」になったこともあって、制裁を受けるケースが増えているようです。 制裁は鞭の使用だけでなく、レース中、馬をまっすぐ走らせることができず他馬の進路を妨害したとされる「斜行」などでも科せられます。その程度によって「戒告」の場合は1点、過怠金(罰金のようなもの)が1万円ならば制裁点が2点、2万円3万円は3点で、10万円になると8点、それ以上になると騎乗停止となります。制裁点の合計が30点を超えると、「再教育」として研修などを受けなければなりません。交通違反の点数制みたいなものでしょうか。逆に年間30勝以上あげていて、制裁点数の合計が10点以下だった騎手にはフェアプレー賞が授与されます。 ただ、制裁点数が少ないことがジョッキーとしての評価に直結するかどうかというのは微妙です。斜行に対する制裁については、馬の動きの予測や修正する技術が問われることがありますが、鞭については斜行を防ぐために使用することもあれば、実際に馬に当たっていなくても数えられてしまうことがあります。