自宅で性感染症やHPV検査が可能に。英国企業「女性の身体へのタブー視」に立ち向かう。
ロンドンに住むイラストレータークラーク志織さんの連載「イギリスのSDGs事情ってどうなのさ?」。イギリスの人たちがSDGsの理念を日々の暮らしにどう取り入れているのかを、パンチの効いた軽妙なタッチのイラストつきでレポート! 笑いと学びのつまったコミックエッセイです。 【イラスト】HPVウイルスをチェックできるというタンポン 2020年からスタートした本連載。20本目となる今回、初の試みでとある企業のCEOをインタビュー。性に対するタブー視などによる女性の身体にはられたレッテルのせいで、多くの女性が適切な医療ケアを受けづらくなっている......そんなイギリスのジェンダーペインギャップに立ち向かうロンドン発の婦人科医療のスタートアップです。日本もさることながら、イギリスもまだまだ課題は山積み。そんな厳しい現状を知りつつも、画期的なアイデアに期待が膨らむ......?
「なんて斬新な!」衝撃を受けた街中の広告
先日、近所のバス停で、とある広告に目を奪われました。 シンプルな背景に、紀元前100年と1870年代に使用されていた膣検査用の医療器具の写真が並べてあり、その下には、膣にタンポンが挿入されているリアルなイラストが描かれている......。 キャッチコピーは「The future is here (未来はここにある)」。 いったいぜんたいなんの広告だろう? よくよく見ると、なんとタンポンの広告でした。しかも性感染症(STI)の検査ができるタンポンだという。ナプキンやタンポンの広告って、ふんわりとした優しい雰囲気のものが多いイメージだったので「なんて斬新な!」と驚いたことを覚えています。 というか、性感染症(STI)検査が可能なタンポンって??
自身の性の健康をコントロール「家庭用の性感染症検査キット」
この広告を打ち出したのは、ロンドン発の婦人科医療のスタートアップ「Daye」。月経ケアと女性の健康のスタンダードレベルの向上を目指すとともに、女性の身体に貼られたレッテルにより、多くの人が適切な医療ケアを受けづらくなっている、ジェンダーペインギャップについて問題提起する、とても力強いフェミニストな企業です。 ウェブサイト内には、オープンに語られづらい膣や生殖に関する知識や、タンポンの使い方、更年期やおりものについて、トランスジェンダーやノンバイナリーの人にとっての月経体験など、さまざまなテーマの記事が掲載されています。 オーガニックかつサステナブルな製造方法でタンポンを製造する「Daye」ですが、最近は自宅で性感染症(STI)の検査ができるタンポンキットも開発したそう。これらはイギリスの大手薬局「Boots」でも取り扱われています。 偶然にも以前私がスタジオを借りていた建物にオフィスがあるということを知り、せっかくならば.......と、オフィスにお邪魔させてもらいつつ、CEOのValentinaさんにたくさん質問させていただきました! ーー「Daye」を立ち上げたきっかけは? 幼い頃から月経に悩まされた過去の経験からきています。私は9歳の時に月経が始まりましたが、自分の身体に何が起こっているのかまったく知識がなかったので、羞恥心と恐怖心から1年以上も月経を隠しており、自分が珍しい病気なのだと思っていました。ようやく父に話すと、父は私を救急病院に連れて行きました。病院では看護師に「ただの生理よ!」と笑われましたが、当時の私にはその意味すら分かりませんでした。 そして月経に関する教育の欠如と偏見を痛感したのです。年齢を重ねるにつれ、月経ケアと女性の健康のスタンダードレベルを引き上げる会社を作ろうと決意するようになりました。 ーー自宅で性感染症の検査ができるタンポン型キット「STI Screening Kit」を開発したのはなぜ? 骨盤内検査や綿棒を使った従来の検査方法では、恥ずかしさや不便さ、不快感から検査を避ける人が多いことを知り、家庭用STI検査キットを開発しました。自宅のプライバシーのある空間でタンポンを使いサンプルを採取することで、こうした障壁の多くは取り除くことができます。また、より総合的なサンプルを採取できるため綿棒よりも正確。私たちは、女性が自身の性の健康をコントロールできるようエンパワーしたかったのです。 ーー実際にキットを利用したユーザーの声は? 当社のSTIスクリーニング・キットに関するフィードバックは、好意的なものばかりです。クリニックを受診するよりもタンポンでサンプルを採取する方が、便利で自由、かつ簡単であるという点が好評を得ています。また、「Daye」が総合的かつ個別的なアフターケアも提供していることで、必要に応じて医師や処方箋による治療につなげられる点も高く評価されています。STI検診をより身近に、敷居を低くする画期的な方法だという声も。