【震災・原発事故13年】古里葛尾でのれん再び 居酒屋「政」店主 渡辺政広さん(48) 3月に避難先三春から移転
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で避難を強いられ、三春町に移転していた葛尾村の居酒屋「政」が13年ぶりに村に戻り、3月中旬にも再開する。村は復興へ着実に歩む一方、夜に営業する飲食店がなく、村民から交流の場を求める声が上がっている。のれんを再び古里で掲げるのを夢見てきた店主の渡辺政広さん(48)は、今こそ地域のにぎわいづくりに貢献し、活性化の推進力になろうと決心した。温かく支えてくれた三春町民への感謝を胸に、葛尾に希望の灯をともす。 村宿泊交流館みどりの里せせらぎ荘の一画に出店する。「楽しかったと思える場所にする」。渡辺さんは24日、スタッフの阿部優子さん(27)と準備を進めた。 2001(平成13)年10月、村内の自宅脇に店を構えた。開店10年を控え、記念企画を考えていたところに震災と原発事故が起きた。発生から約8カ月後、自身も含め多くの村民が避難した三春町に仮設店舗を設け、同郷の絆を紡いだ。2016年12月、村民が暮らす町内の恵下越(えげのこし)団地に移転すると、常連に加え大勢の町民が来てくれるようになった。
昨年9月、せせらぎ荘を管理する葛尾むらづくり公社から「施設で営業してくれないか」と打診を受けた。夜の営業をする飲食店が村内になく、宿泊客に夕食を提供できていない現状を知り、住民の交流の場が少ないという課題も改めて認識した。「いつかは葛尾で」とずっと思い続けてきた。店を戻せばコミュニティーの形成や働き場の確保にもつながると考えた。村には今、移住者も含め約460人が暮らす。村を一層元気にしようと決意を固めた。 なじみ客に三春の店を閉じると伝えると、惜しむ声が相次いだ。後ろ髪を引かれる思いで昨年末、引き払った。「本当にありがたかった」と三春での生活を振り返る。焼き鳥やオムレツなどの定番メニューは三春の人たちにも評判だった。村に戻ったら特産品を使った逸品も出そうと考えている。 葛尾の元の店は幅広い世代に愛され、日々満席だった。その再興を目指す。商売を続けてこそ三春への恩返しにもなると信じて。「店を通して『葛尾は良い所だな』と感じてもらえればうれしい。多くの人に良い思い出を提供し、村への関心を高めたい」。思い描く古里の未来は明るい。