塩野瑛久「光る君へ」一条天皇VS詮子の御簾を越えた対峙振り返る 吉田羊に「リスペクトしかない」
加えて、一条天皇の複雑な立場にも思いを巡らせる。「自分の立場を利用しようと思えばいくらでもできる立場です。でも、一条天皇は愛情深い人でもある。人の思いをしっかり受け止めていますし、政のこと、 母上とのこと、定子とのこと……さまざまな感情が一気にごちゃごちゃになって整理がつかない感じがありましたね」 母・詮子の説得に押されたのか、一条天皇は悩んだ末、道長を右大臣に任ずる。一条天皇はなぜ母の意見に従ったのか? 塩野はこう解釈を語る。
「あれはもう母上の圧というか……(笑)。一条天皇もまだ10代で、どこまで自分の勝手にしていいのか迷いがあったんだろうなと。もしかしたら、まだ自分にはわからないことがあるのかもしれない、経験豊富な母上の方が物事が見えているかもしれないと。ただ、その時は羊さんが説得力を持たせるお芝居をされていたので、役としても僕としても疑問は浮かびませんでした。もちろん葛藤はありましたけど……」と振り返りつつ、自身の人生にも重なる部分があったとも。
「家族、血縁っていうのは切っても切れないもので、息子としてはどうしても放っておけない。そんな思いがどこか重なったんです。母親に一生懸命思いを伝えられて、それをないがしろにして自分の思いだけを貫くというふうにはなかなかできないと感じていて。自分が何とかしなければならないという思いになるので、一条天皇の決断はかなり腑に落ちたんですよね」
吉田に「リスペクトしかない」と大いに刺激を受けた様子の塩野。「言葉を選ばず申し上げると、キャリアを重ねれば重ねるほど、どこか油断したりないがしろにしがちな部分も出てくると思うんですね。だけど羊さんにはそういったところが一切ないんです。純粋な思いと、ドライ(リハーサル)の段階から本番さながらの感情をぶつけてこられた羊さんに、もうリスペクトしかなくて。これから好きな俳優を聞かれたら“吉田羊さん”って言おうと決めたぐらい。それほど惚れ惚れしましたし、どこまで行ってもあぐらをかいてはいけないと改めて気を引き締めるきっかけになりました」と意を新たにしていた。(編集部・石井百合子)