ノエル・ギャラガー来日公演が開幕 ソロ~オアシスの軌跡を辿る名唱名演、鎮魂の「Live Forever」
包み込むような歌唱、オアシスの曲をいま歌う意味
ここでノエルとマイクのふたりだけを残し、「Dead In The Water」へ。水面の上に大きな満月が浮かぶ映像をバックに、アコギとピアノだけで歌われる歌詞は、ラブソングのように聞こえるが、ソロで歌い続けることの理由を我々に向けて語りかけているようにも感じた。詩的な表現とスクリーンの演出が見事に合致した、この日のハイライトに挙げたい名演だ。 ここに至るまでも、客席からは「弟はどこだ」だの、オアシスがどうのと声が上がっていたが、満を持してようやく歌ったオアシスの曲が、「Going Nowhere」というチョイスも心憎い。「Stand By Me」のシングルにカップリング曲として収録、のちに『The Masterplan』にも入れられたこの曲は、名声やツアー暮らしとつき合っていくことへの不安が影を落としていたはず。それを今のノエルが、飄々と歌う様子を見られるなんて、長年のファンとしては感慨深い瞬間だ。 さらに「The Importance Of Being Idle」「The Masterplan」と続くと、近くの席のアメリカ人と思われる若い観客が「オエイシス、オー・マイ・ゴッド……」と何度も深いため息をつく声が聞こえてくる。どう見ても20代なのだが、周囲を見渡すとやはり20~30代と思われる観客がこれまでより多いように感じた。ドキュメンタリー映画の上映や旧作のリイシューが、新しいリスナーを獲得することにつながっているのだろう、という手応えを感じる。 メロディの美しさが際立つ「Half The World Away」で自然と観客の合唱が起きた後は、本編ラストに「Little By Little」を持ってきた。オアシスというとどうしても初期の曲に人気が偏るが、メンバー・チェンジ後にもノエルはこういう超強力なミドル・チューンを書いていたのだ。リリース当時はピンク・フロイド『The Dark Side Of The Moon』からの影響を色濃く感じた曲だったが、今はもっと骨太で、アレンジもゴスペル・ロック的な方向を選んでいて収まりがいい。 アンコールの最初に披露された「Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)」は、ノエルが言っていた通りボブ・ディランの曲だが、コーラスやリズムアレンジは、マイク・ダボがシンガーだった時期のマンフレッド・マンのバージョン(1968年:全英1位・米10位)を参考にしている。そのチョイスも、初期のフォーク・ロック的な方ではなく60’sサイケ・ポップの方に向き直した感じがする今のNGHFBsとサウンド的によくマッチしていた。 続く「Live Forever」は、訃報が伝えられたばかりだったポーグスのシェイン・マガウアンに捧げると宣言してから歌い始められた。これまでに聴いたことがない、演奏も歌唱も抑えたトーンで通された、文字通り鎮魂の「Live Forever」。オアシスの原曲とはまったく異なる、穏やかに包み込むようなノエルの歌唱が、コーラスと共にひと際心に響く。 最後の「Don’t Look Back In Anger」も、いつになく優しい歌い口ではなかったか。シャウトに向かない、どちらかというとクルーナー寄りな声質であることをよくわかっているノエルは、10年以上も続いてきたNGHFBsでの活動を通して、シンガーとしての完璧な“声”をいよいよ見つけたのかもしれない……そう感じずにはいられない名唱だった。オアシスの復活を切望する声は相変わらず止まないが、シンガー・ソングライターとしての道を本望通りに歩み続けているノエルを前にすると、自分には今あのバンドを再生させることの意義が見えてこない。やはり男ふたり、別れていく運命だったのだ。せつないけれど。
Masatoshi Arano