緑の洋館で至福の時間 福岡市南区にある「長崎阿蘭陀珈琲館」
「ジブリ作品に出てくる洋館みたい」――。そんなコメントがSNSで飛び交う場所が、福岡市南区平和の小高い丘の上にある。ツタに覆われた「長崎阿蘭陀(おらんだ)珈琲館」。市街地を眺めながら飲食を楽しめる至福のひとときが評判だ。 【写真】緑の中でほっと一息
実は、洋館に足を運ぶのはこれが2度目。最初に訪れた今年2月、店は臨時休業していたが、年季の入った外壁に絡まるツタが春を過ぎるとどう変化するのだろうか――と楽しみにしていた。3か月後、目の前の洋館は深い緑にすっかり覆われていた。 洋館の一帯がすっぽりと、外の世界から遮断されてしまったかのようだ。入り口そばにある「長崎阿蘭陀珈琲館」の文字はツタの葉に埋もれ、もはや読めない。
入り口の扉を開けると、大きな窓の外にパノラマの景色が広がっていた。初めて来店した人からは、印象派の絵画を思わせる窓外の情景に感嘆の声も上がるそうだ。
長崎県内で複数の飲食店を経営していた初代のオーナーが、店をたたんだ後、坂の街・長崎への慕情を誘うこの丘で、1980年に始めた珈琲館。広い店内には英国から取り寄せたアンティーク調の木製家具が並ぶ。 暖炉のそばにある窓の外には、中庭があり噴水が見える。ゆったりしたスペースに配置されたステンドグラスや、オランダ風の陶器。オープン時から変わらないというレトロな館内に、創業者のこだわりが息づいている。
一番人気はちゃんぽん
平日で100人、休日になると150人ほどが訪ねてくる人気店。昼どきには順番待ちの列ができることも珍しくないという。店の名前からカフェを想像するが、洋食を中心に食事も楽しめる一昔前の喫茶店の雰囲気に近い。 創業当時からの人気メニューは長崎ちゃんぽん。客の半分ほどが注文するそうだ。鶏がらと豚骨、野菜を丁寧に煮込んだスープが自慢で、エビや豚など17種の具材に隠れるように、特注の太麺がのぞく。「伝統を引き継ぎながらも、よりおいしい料理への進化を目指しています」と荒巻さんは話す。 季節ごとに微妙に変化も加える。春はタケノコを入れ、夏はトマトをベースに。秋は栗、冬には牡蠣(カキ)を用いるなど四季の食材が器を彩る。