『95』『滅相も無い』『街並み照らすヤツら』 映画&演劇人が手がける4月期ドラマに注目
4月も3週目に入り、様々なドラマが出揃ってきた。その中でも今期ドラマの特徴は、映画・演劇人が手掛ける作品が多数存在していることにあるだろう。 【写真】『滅相も無い』キャストが担う“劇中劇演出” 髙橋海人が主演を務めるドラマ『95』(テレビ東京系)の監督を務めているのは、『アルプススタンドのはしの方』『女子高生に殺されたい』などを監督した城定秀夫。城定は、ピンク映画を手掛けてきた経験もあり、人間の欲を炙り出すような作風が目立つ。最近の作品では『ビリーバーズ』『女子高生に殺されたい』が記憶に新しい。どちらも男性の秘めた欲が解放され、それによって人生が降下していく様を描いていた。一方で、『アルプススタンドのはしの方』では、女子高生たちの抱えている繊細な悩みや思春期特有の心境の変化を取り上げつつも、爽やかな作品に仕上げていた。どちらの作風にも言えることは、人間の機微な心情変化をドラマチックに描いていることだ。そしてそれは、『95』にも当てはまる。 『95』では、世界がもうすぐ終わると信じられていた1995年を駆け抜けた男子高校生たちの友情が描かれている。今を生きようともがく男子高校生たちの姿は、内に秘めた思いを抱えつつ、刹那的な関係で繋がる人間を描いてきた城定によって、独特な空気感が醸し出されている。 秋久ことQ(高橋海人)が持っていた拳銃や、現代パートで出てきていない翔(中川大志)たちチームのメンバーがどうなったのかなど、この先の展開に目が離せない。
加藤拓也監督『滅相もない』、 前田弘二&高田亮タッグによる『街並み照らすヤツら』も
『滅相も無い』(MBS/TBS)では、第67回岸田國士戯曲賞を受賞し、舞台作家として注目を浴びつつ、ドラマや映画でも活躍する加藤拓也が監督・脚本を担当している。 加藤拓也作品は、フィクション性がありつつも、日常の延長線上にあるようなリアリズムのある会話、演出、そして繊細なテーマを扱っているのが特徴的だ。舞台『綿子はもつれる』では「死」、舞台『ドードーが落下する』では「統合失調症」、映画『わたし達はおとな』では「学生妊娠」というテーマを中心に、物語が展開していた。本作でも、SF風の世界設定で、登場人物たちの人生が1話ごとに語られており、それぞれが抱いていた素朴な思いや悩みが徐々に浮き彫りにされていくのが面白い。 また本作では、登場人物たちが語るそれぞれの人生の再現として、“演劇的手法”が使われているのも加藤監督ならではの見どころだろう。同じスタジオセット内で、数人のスタジオキャストが複数の役を演じている。これによって、人生を語る登場人物以外のキャラクターや時間経過が抽象的になり、他者から見る他人の人生というものを可視化させている。これらは、舞台表現と映像表現の両方に触れてきた加藤だからこそなせる業といえる。 4月27日より放送がスタートする、監督に前田弘二、脚本に高田亮らを迎えた『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)も忘れてはならない。 前田と高田といえば、何度も映画でタッグを組んできている名コンビ。2011年の『婚前特急』で初タッグを組み、劇場公開映画の商業デビューした2人は、2021年の『まともじゃないのは君も一緒』や、2023年には『こいびとのみつけかた』が公開されるなど、数々のタッグ作で長年精力的に活動している。『まともじゃないのは君も一緒』『こいびとのみつけかた』は、「おかしな2人の物語」と掲げている通り、変わり者の男女をコミカルに描いた物語となっている。 これらの作品には、ストーカー行為や殺人衝動など、“愛ゆえに行き過ぎた行動をする人々”が描かれているという共通点も。最新作『街並み照らすヤツら』も、シャッター商店街にある経営ギリギリのケーキ屋の店主が、大切な店と家族のために、悪事に染めてしまう……という2人らしい物語になっている。 近年、ネットの視聴環境が普及したことに加え、配信サービスオリジナルのリッチな映像コンテンツが増えたこともあり、“テレビ離れ”、ひいては“地上波ドラマ離れ”が加速しているとも言える。そんな中で、今回挙げたような映画や演劇のフィールドで活躍する製作陣が映像表現にバリエーションを与えることは、地上波ドラマに新たな可能性をもたらすのかもしれない。
赤城杏奈