草なぎ剛、手話に挑戦したドラマで得たもの「常にチャレンジする気持ちが大事かな。このことはこれから先もずっと忘れないでいたい」
手話通訳士になった一人の男が殺人事件に巻き込まれる姿を追う社会派ミステリー「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」が、12月16日(土)、23(土)と2週にわたり放送される(夜10:00~NHK総合・BSP4K)。 耳の聞こえない両親を持つコーダである荒井尚人を草なぎ剛が演じ、初めて手話を使った演技に挑戦。またろう者役は、実際にろう者の方が出演し、リアリティーのある演技を見せる。 今回は、尚人を演じた草なぎ剛に、ろう者との芝居で気づいたこと、芝居に対する姿勢など語ってもらった。 【写真を見る】本作を通して「芝居に囚われなくてもいいと改めて気付きました」と語った草なぎ ■誰のためでもなく自分のために傷ついても前を向いていく…。尚人の成長物語でもあったんじゃないかな ――「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」というタイトルを聞いてどのような物語を想像しましたか? 実は僕、“デフ・ヴォイス”という言葉自体、あまり知らなかったんですよ。でも台本を1Pめくったら、ろう者の方の聞こえない声が漏れているシーンがあって、これかと思いました。そして読み進めていくと、コーダとして生きてきた尚人自身の悲しみや抱えてきたものと共に事件が描かれていて面白いなと。実は、手話を扱った作品と聞いたとき、感動的なヒューマンドラマだと思ったんです。でもふたを開けてみるとミステリー。ある事件の謎を追いかける上で、コーダやろう者がキーポイントになっていく…。もちろんストレートな感動を呼ぶ作品もいいけど、何か事件を挟むことでより家族愛などが浮き彫りになっていると思ったので、僕は大好きになりました。 ――草なぎさんが演じた尚人は、コーダであることで傷ついた過去を持っていたが、ろう者の方と触れ合うことでこれまでの生活を変えていこうとする人物でした。 尚人くんは、どんなにぶつかってもコミュニケーションを取ることを諦めない人物なんです。そこも良かったですね。どれだけ人と寄り添うことができるのか…。人間にとって大事なことを提示してくれる物語だと思います。ただ、これはきっと尚人くんが相手のことを思いつつも自分がしたかったことなんだと思います。誰のためでもなく自分のために傷ついても前を向いていく…。彼の成長物語でもあったんじゃないかな。この作品を見て、心にタンポポが咲くような感じのフワッとした気持ちを感じてもらえたらうれしいです。 ――どういう方に見てもらいたいですか? ミステリー好きな方も、ヒューマンドラマが好きな方も、みんなですね。あと、(稲垣)吾郎さんにも見てもらいたいです。僕の出ていた「罠の戦争」(2023年カンテレ・フジテレビ系)も第1話以降見ていないって言っていたので、この作品は…。僕は吾郎さんの出ている映画「正欲」を見たんですけどね。まぁ(香取)慎吾は見てくれると思うけど(笑)。でも本当にいい作品だから多くの人に届いてほしいと思います。 ■上手いとか下手とか関係ないんだなって気付かされたというか。演じることの楽しみの幅が広がりました ――今回、初めて本格的な手話に挑戦したんですよね。 かなり細かく練習しました。2カ月くらいは先生に付いてもらってずっと練習していて。大阪で連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)の撮影があったので、そのときはセリフを覚えながらもずっと手を動かしていました。中でも手話で悪口を言うシーンがあって、これがかなり難しくて…。この手話を移動の新幹線の中で繰り返していました(笑)。 ――ドラマの中で尚人は「きれいな手話をする」と言われていましたが、気を付けた点などありましたか? 手の形はもちろんですが、それ以上に気持ちで伝えることを大事にしました。普段だと声の大きさで感情を表現するなど、体から発する音を使って芝居をするのが醍醐味なところもあるのですが、今回はそれとは逆の感じがして。手話をしながら自分の中から“デフ・ヴォイス”があふれてきたらいいなと思いながら演じました。ただ表現方法は異なりますが、演じるという点ではこれまでとはそんなに変わらなかったかも。現場では目の前にいる方とお芝居をするだけなので。手話の形さえ覚えていれば、その人に引き出されて手話に気持ちが乗っていくと思って現場に入ったら本当にその通り。皆さんが気持ちを引き出してくれていい感じなりました。 ――ろう者の方とお芝居をしていかがでしたか? 吸引力があって、対峙していたら引き込まれてしまうんです。空気に飲まれるというか。そして途中から本当に“デフ・ヴォイス”が聞こえてくる。そんなときは、お芝居をしながらも胸が高鳴って感動的な気分になりました。今回、ろう者の方でもお芝居の経験がある方とない方もいらっしゃって、そこも面白かったです。皆さん、お芝居をしようとしていないので芝居そのものがわざとらしくないというか…。いろいろ考えさせられました。 ――皆さんのお芝居からどのようなことを感じたのですか? 芝居に囚われなくてもいいと改めて気付きました。おかげさまでこれまでいろんな作品に出演させていただき、お芝居ってこういうものと勝手に思っているところが少なからずあって。どうしてもこのタイミングでセリフを言わなきゃとか、ベストな間って何だろうと考えながら演じているところがあって…。でも皆さんと一緒に芝居していたら、そういうものはどうでもよくなってきました。皆さん芝居をしなくても役そのものなんですよ。それを一度もやったことがない人も成立させている。その自由さというか、そのままな感じがとても楽しかったです。何か上手いとか下手とか関係ないんだなって気付かされたというか。演じることの楽しみの幅が広がりました。 ■2023年は人生で一番頭が良かったのかも(笑) ――手話を使いながらろう者の方と演技をするという新しいことが多い作品でしたが、撮影に入る前、不安などありましたか? 今回だからというのではなく、いつも作品に入る前は不安です。でもそんなもんじゃないかな。結果的にこのドラマは本当にいい作品になったと思うけど、実際にその場にならないと分からないことだらけなので。この考え方は若い頃からあまり変わっていないかも。いただいたものに対して全力投球することが大事。役に関しても、もちろんそのための準備はしますが、その場に立って相手と向き合ってみないと分からないことだらけ。これは人生と一緒だと思います。生きてみないと分からないというか。超能力者じゃないんだから先は見えないし、とりあえずトライするだけ。そして常にチャレンジする気持ちが大事かな。このことはこれから先もずっと忘れないでいたいことです。 ――本作撮影中も連続テレビ小説「ブギウギ」の撮影があったと思いますが、物事を並行して行うのは大変ではないですか? おかげさまで若いときから割と忙しくしてきたので、慌ただしい中、何かをしていくのはどちらかというか得意な方です。集中しないといけないことが多いと、アンテナが敏感になって覚えるのが早くなるんですよ。なので、2023年は人生で一番頭が良かったのかも(笑)。ちなみに「ブギウギ」は、かなりのセリフ量なんですよ。最初台本を見たとき大丈夫かな?と思ったけど、意外とすぐに覚えられて。これは本当に忙しさのおかげで脳の回転が速くなっているんだと思います。手話を覚えながら、「ブギウギ」のセリフを覚える一石二鳥なやり方も開発したし。意外とできるもんなんですよ。 ――2023年は、「罠の戦争」、連続テレビ説「ブギウギ」、「デフ・ヴォイス」、「世にも奇妙な物語」、舞台「シラの恋文」と出演作も多く大忙しでしたが、どのようにリフレッシュしていますか? やはり大好きなギターを弾いているときかな。今はペンタトニック・スケールを覚えて、基礎練習ばかりしているんだけど、これが楽しくて。ブルースギターマンになるためには、まだまだ練習が足りないです。というか、ずっと弾いているけど全然上手くならない。(斉藤)和義さんには「いつかトビラが開く」と言われているんですが、僕のトビラはビクともしなくて…。早く開いて欲しいです。ちなみに、「はっぴょう会」というライブを2024年にはやりたいなと思っていて…。ただ、これって自分で曲を作らないといけないんですよ。あと3曲は必要で。これまでと同じコードだともう新しいものが生まれそうもないので、そのためにもペンタトニック・スケールを覚えないと。2024年は頑張ります! ――改めて草なぎさんにとって2023年はどのような年でしたか? 「デフ・ヴォイス」をはじめ、本当にいい作品を作ることができた一年でした。そしてとにかくずっとセリフを覚えていました。それはとても幸せなことだと思います。仕事をやれることが一番楽しいし、幸せです。 取材・文=玉置晴子