自民、羅針盤失い「保守漂流」 安倍派不祥事が足かせ 後進の存在感低下も
安倍晋三元首相が参院選の演説中に銃撃され死亡した事件から8日で丸2年となる中、保守の羅針盤を失った自民党が政界の大海で漂流している。党是の憲法改正が足踏みする一方、リベラル色の濃いLGBT理解増進法が自民の後押しで成立し、党内では選択的夫婦別姓推進派が活動を活発化させている。派閥のパーティー収入不記載事件で安倍氏の遺志を継ぐべき後進が存在感を低下させた影響も小さくない。来年に結党70年を迎える責任政党はどこへ向かうのか。 【写真】銃撃された安倍元首相が最後に握っていた傷のついたマイク 「精力的にやる。必要に応じて総裁(岸田文雄首相)にも来ていただく」。5日の自民憲法改正実現本部の会合後、古屋圭司本部長は記者団に閉会中も党内議論を進める考えを示した。6月28日には衆院憲法審査会メンバーによる「意見交換会」が開かれた。 夏休み返上のこうした動きについて、自民関係者は「最近の首相は改憲に気合が入っている。保守層を意識しているのだろう。秋の総裁選に打って出るという気持ちが伝わってくる」と語る。 安倍氏が死去して以降、自民は保守政党らしさを失っていた。 LGBTなど性的少数者への理解増進法が昨年6月に成立。選択的夫婦別姓に関しては、自民の推進派でなる議員連盟が今年6月、早期実現を求める経団連に賛同するとアピールした。 自民が改憲に力を入れる背景には、次期総裁選や衆院選を見据え、〝左傾化〟に不満を抱える保守層をつなぎとめる狙いが透ける。 「伝統を尊ぶと同時に未来への影響を熟慮した安倍氏は『効率性』に重きを置く財界の要求には屈しなかった。(憲法改正や皇位の男系継承の堅持など)目標が明確だったため政策の振れ幅は小さかった」 自民重鎮はこう述べた上で、「今は振れ幅が大きい。党の背骨が不安定になっている」とつぶやく。 不記載事件が直撃し、改憲論議を停滞させる口実を立憲民主党などに与えた安倍派(清和政策研究会)の責任も重い。安倍派若手は「情けない思いだ。保守の象徴だった安倍派の埋没で自民らしさが失われてしまう」と反省を口にする。 それでも自民幹部は「保守回帰」以外に再建の道はないと指摘。「選挙で審判を受けた上で、3年後の総裁選で安倍イズムを受け継いだリーダーを誕生させることが重要だ」と訴える。(内藤慎二)