<STAP細胞問題>「CDB解体」提言 iPS細胞研究への影響は?
論文は撤回でも検証作業は続行
また、改革委員会は理研に対し、外部委員からなる「調査・改革監視委員会」を設け、「再現実験の監督」だけでなく、「2Nature論文検証」を行うことを提言しました。論文は近いうちに撤回することが予想されているのですが、それで検証をやめてしまってよいわけではない、ということです。提言書は「論文撤回にかかわらず、新たな研究不正行為の疑義は引き続き調査されるべきである」と明記しています。 理研の野依良治理事長も、改革委員会からの提言を受けて声明を出しました。そのなかでSTAP現象の再現実験だけでなく、「STAP研究で使用された細胞株等の保存試料の分析・評価等」や「公開データに基づく解析」も進めていく、と述べています。これは今後も『ネイチャー』論文の検証を続けていくということです。 「研究不正」の問題と「再現性」の問題は、基本的には別の問題です。再現性があっても、捏造・改竄・盗用といった研究不正が免責されるわけではありません。一般的に科学研究というものは、過去の研究の積み重ねを前提とし、それでもまだわからないことを探るために行われます。その前提に不正があれば、後続する研究の進展にも悪影響するのです。研究者個々人の責任ですむ問題ではないのです。 理研はその点を認め、この問題に正面から取り組むという意志を表明したのです。
理解しやすかった今回の会見
改革委員会はCDBの「解体」を提言しているのですが、この解体によって、CDBで進行中のほかの研究に悪い影響があったら問題です。とくに気になるのは、iPS細胞を使った臨床研究計画です。CDBの高橋政代プロジェクトリーダーらは2013年7月から、目の難病「加齢黄斑変性」をiPS細胞を使って治療する臨床研究に取り組んでいます。患者の皮膚からiPS細胞をつくり、さらにそれから「網膜色素上皮」をつくって患者に移植するという方法です。 この点について岸委員長は「理事長がほんとに重要だと考えれば、問題なく進められると思います。全然心配しなくてもいいでしょう」とはっきり述べました。 なおiPS細胞を使う臨床研究は京都大学でも準備中です。 今回の記者会見は、これまでこの問題をめぐって理研や小保方氏側が開いてきた記者会見すべてのなかで、最もまともで、最も理解しやすいものでした。 ある委員は、これだけの事件が明らかになっても研究不正は必ず起きるだろう、という悲観的な見解を示しました。しかしながら、科学の世界における“三大不正”の1つを経験した社会は、それをまだ経験していない社会よりも、今後の研究不正に対して何からの準備をできているといえなくもありません。この経験は世界レベルで広く共有されるべきでしょう。 (粥川準二/サイエンスライター)