能登地震1年 本紙記者ルポ㊤ 産業再生 石川県輪島市、事業再開6割弱 「被災企業に伴走支援を」
元日に石川県の能登半島を襲った巨大地震から間もなく1年となる。観光名所だった「朝市通り」一帯が全焼するなど甚大な被害を受けた輪島市では、被災した事業者の再建が6割弱にとどまり産業面での復興は道半ばだ。事業を再開し市内で印刷業を営む男性は、取引先や売り上げの減少などに苦しんでいるとし、持続可能な経営や地域の産業維持などに向けた国や県による手厚い支援を求める。 冬の北陸特有のしぐれとなった28日の輪島市。市内には1階部分がつぶれたままの木造家屋や公費解体を知らせる紙が張られた店舗などが至るところにあり、震災から時が止まったかのような景色が広がる。 「市内全域で生活基盤が基本的に戻っていない。先が見えないね」。輪島朝市から東に約400メートルの場所にある徳野印刷の代表徳野喜和さん(44)は年明けの成人式に向けた名簿の印刷作業をしながらつぶやく。最大震度7の揺れは、印刷に欠かせない主要な3台の機械を損傷させた。復旧を試みたが、修復不可能と判明し休業に追い込まれた。
幸いにも2階建ての事務所兼自宅は被害が少なくそのまま使えた。「続けることで地域に貢献しよう」。その思いで国や県の補助金を使い、1台当たり数百万円する印刷機器を3台買い替え、秋に本格的に営業を再開した。ただ、主要な取引先の一つである観光関連からの仕事が激減し、売り上げは震災前の3分の1にまで減少。「震災前に取引していた企業の半分ほどは今も再開していない」と窮状を明かす。 輪島商工会議所などによると、市内で被災した1176の事業者のうち、営業を再開できたのは全体の6割弱の686事業者にとどまる。後継者がいない高齢の経営者が被災し、復興に長い時間がかかると判断して再始動を断念するケースも多いという。徳野さんは「このままでは町に解体業者しかいなくなってしまう」と危惧する。 福島県では東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生後、福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)が被災市町村の商工業などの復興・再生を支援。事業者と何度も対話し、再開に向けた課題を一緒に確認し、歩調を合わせて解決策に取り組んだ。担当者は「福島の経験から、休業が長びくほど再開意欲が減退する。発生直後から被災事業者に寄り添った迅速な支援が必要」と強調する。
徳野さんも補助金での一律支援に終始せず、取引先とのマッチング支援など、会社の事情に応じた個別の支援が重要だと指摘する。「地域に根付いて再開を決めた企業に手厚い伴走支援をしてほしい」と求める。