完結から8年。逆に今『トリコ』
気鋭のシンガーソングライターで大のマンガ読みである小林私が、話題の作品や思い入れの深い作品を取り上げて、「私」的なエピソードとともにその魅力を綴る連載「私的乱読記」。 【画像】「なくていいセリフ」が描かれた『トリコ』34巻 今回は、2008~2016年に『週刊少年ジャンプ』で連載された、グルメをテーマにしたバトルマンガ『トリコ』。完結から8年経ってもなお、小林私が本作に魅了されている理由とは?
「捕獲レベル」インフレの誤解を解きたい
誰かが言った。大人になると、昔読んだマンガばかり読み返してしまうと。 俺が『トリコ』を読んだのは20歳を超えてからで、いまだに新しいマンガも全然読む。『トリコ』は8年前に完結している。世はトリコ時代……とはいえないが、俺はいつだって『トリコ』の話がしたい。 まず、舞台が「グルメ時代」という設定からかなりぶっ飛んでいる。主人公・トリコはマジのお菓子の家に住んでいるし、出てくる食材もハチャメチャだ。だからだろうか、俺は「『トリコ』ナメられすぎなのでは?」と思うことがあるのだ。 よく指摘されている箇所だと、「捕獲レベル」のインフレ。 「国際グルメ機関」IGOが定めた、獲物を仕留める“難度”で、捕獲レベル1が「猟銃を持ったプロの狩人が10人がかりでやっと仕留められるレベル」とされている。 そんな説明のなか、初めて出てきた食材が、捕獲レベル8の“ガララワニ”である。 これに対して、終盤に登場する八王の一匹、馬王・ヘラクレスの捕獲レベルは6200。いや、初期のガララワニ、ショボすぎるだろ……とみんな思うようだ。 いったん、ここの誤解を解きたい。 そもそも当初の“捕獲レベル”とは、単に強さだけでなく、発見の難度や場所の過酷さも含まれるものとして扱われている。 大きくインフレしたのはグルメ界編から、と思っている人も多いだろうが、前触れは四獣編である。強さのみの数値を計れる測定器「メジャートング」の登場がここだ。人間界で計測できる最高値100を大幅に更新し、999まで計測ができる。 それから、グルメ界編では「リドルチャプター」が登場。こちらはデータが入力されており、さらに細かい上限もなくなっている。“推定”捕獲レベルという言葉も出てくる。彼らも、絶対的な評価というよりは一応の目安として使っているわけだ。 おわかりだろうか。何千という数値と比べるからピンとこないのであって、もとはレベル100を上限に定められているのだ。 メジャートングやリドルチャプターで捕獲レベルを刷新することがあれば、また評価も変化するだろう。ガララワニも初期トリコも、けっしてショボすぎはしないのだ。