食品衛生法改正で「いぶりがっこ消滅危機」報道から一転、秋田県横手市“伝統の味”が死守された舞台裏
2年前の2022年1月、特産品の漬物「いぶりがっこ」の産地で知られる秋田県横手市は危機感が充満していた。漬物生産農家の高齢化に加え、食品衛生法改正により、その存続には基準に沿った設備導入のための高額な費用がかかることから、「潮時かも」と撤退する生産農家が大半を占めていたのだ。 【写真】発酵・熟成中のいぶりがっこ 当時、県のアンケートでは県内漬物生産者約300人のうち4割が「継続できない」と回答。こうした状況などを受け、「おばあちゃんの漬物ピンチ」「ふるさとの味存亡の危機」など、「いぶりがっこ」の町に降りかかった伝統の味の消滅危機は、センセーショナルに報じられた。
消滅危機報道から2年で状況一変
あれから2年。改正法に対応する経過措置終了の5月31日まで4カ月と迫る中、このまま秋田の伝統食は途絶えてしまうのか…。横手市に存在する約40人の「漬け手」と呼ばれる生産者で組織する「横手市いぶりがっこ活性化協議会」を取材すると、意外な事実が判明した。 「協議会に所属する約40人のいぶりがっこ生産者が全員、法改正後も生産を継続する意向です。あの当時は確かに、いぶりがっこづくりを継続するにもなんのよりどころもなく、生産者はもちろん市にも危機感が充満していました」。 こう明かすのは、横手市いぶりがっこ活性化協議会の事務局担当者・関将和氏だ。存亡の危機から一転して全員継続の意思表示となった要因は何だったのか。関氏が続ける。 「法改正に対応するために必要な設備増強に伴う費用を県が3分の1、市からは6分の1を補助。合計で2分の1を補助することになりました。県としても重要な特産品ですので、迅速に対応いただけました。この補助の対象外となる事業者に対しても、市単独の補助事業として、4割の補助(上限40万円)となるよう助成を行っています」(関氏) 改正食品衛生法では、加工する場所と生活場所を明確に区分けすることや水回り設備の設置など、衛生基準を満たした施設を整備して営業許可を取得することが必要に。漬物製造業者もこの改正法の対象となり、これまで通り継続するには作業場の新設に多額の費用が必要となった。 高齢化に加え、新たに数十~数百万円の出費を強いられることから、「ここが潮時」と撤退を考える生産者が続出したのも無理はなかった。法改正前からの製造者は経過措置期間の24年5月末までが販売継続のデッドラインとなり、それ以降は営業許可なしでの販売ができなくなる。それが当時の状況と重なり、「自家製漬物消滅の危機」報道につながった。