タイトル争いで起きる敬遠行為は、是か非か
大ブーイングが飛び交った。 4日、仙台・コボスタ宮城で行われた楽天―オリックス戦は異様な雰囲気に包まれた。打率.331で首位打者をキープしている糸井嘉男をわずか5厘差で追う銀次が、「1番・一塁」で起用され、打席に入ると、先発の松葉貴大は明らかな“敬遠”で勝負を避けた。 銀次は「4の4」を打てば糸井を抜くことができた。松葉は、チームメイトのタイトルを援護することを選択した。キャッチャーがあからさまに立つことはなかったが、結局、5打席連続の敬遠。 「勝負しろ!」「逃げるな!」。飛び交う罵声は、松葉のヒーローインタビューの間まで続いた。松葉の銀次への敬遠策は、もちろんベンチの指示。 試合後、オリックスの森脇監督は「チームとしてここまで全力で戦ってきた。嘉男だけじゃなく、俺にとって、うちの選手は全員が特別だから」と敬遠の意図を説明した。何年かに一度、シーズンの終盤で見られる日本のプロ野球の風物詩のような光景である。 もう勝敗の意味をなさない試合で銀次のタイトル挑戦に期待を抱きチケットを買ったファンを完全に無視した行為。曲解すれば、“敗退行為”ともとれる悪しき日本プロ野球の伝統だ。 レッドソックスの上原浩治が、巨人時代の1999年、1本差で追う松井秀喜の本塁打王タイトル奪取を援護するために、ロベルト・ペタジーニを歩かせる指示を受け、マウンド上で涙を流して悔しさを表したことがある。試合後、「やってもいい敬遠と……」と発言、ルーキーが日本野球の悪しき伝統に問題提起をした。彼が、のちにメジャー移籍した理由のひとつに、そういう日本的な価値観を嫌ったという見方まで出たほど。実際、メジャーでは、こういうタイトルホルダーを保護するような行為は、ファンや社会に受け入れられない。テッド・ウィリアムズも最後まで試合に出続けて4割を打った。日本のプロ野球文化ならば、試合が消化試合に入れば、4割をキープして規定打席に達した時点で出場を見合わせただろう。