故障者続出も3連勝健闘の与田中日の裏に「考えさせる野球」
4月30日の巨人戦で初スタメンに抜擢された伊藤康は、その試合は1番だったし、その後、7番を打ち、ヤクルト戦では2番だった。打率.347(セ・リーグ2位)に急上昇している高橋周も、開幕は6番からスタート、途中2番を任された試合もあり、現在は5番に固定されている。それぞれが、その打順に置かれた理由と、求められる役割を考え、何ができるかを実行する。ボールを投げさせることなのか、出塁なのか、一発長打なのか、右打ちなのか。そのために必要な技術を習得しなければならないし、チームの戦略に深く入り込むことで、ベンチに一体感も生まれてくる。与田監督の“タブー無き采配”には、こういう狙いがあったのである。 与田監督は監督就任と同時に高橋周をキャプテンに指名、守備位置もセカンドから再びサードへ戻して責任感を求めた。地位は人を作る――と言ったのは名将、野村克也氏である。 「周平なんかも、僕らがやっている、いろんなアプローチの成果の一つかもしれない。ただ周平の場合、彼自身が、元々、色々と考えていることで、今いい状態を作っているんだけど」 また積極的な若手の抜擢もそうだ。花咲徳栄の甲子園優勝投手の2年目、清水をローテーに入れすでに2勝。同じく2年目の鈴木をストッパーに固定している。 「野手と投手ではまたアプローチが違ってくる」と与田監督は言うが、1軍のレベルで「考えること」を学ぶことも彼らが力をつけるためには必要な作業になってくる。もちろん「考えても答えのわからない若手」には、その答えを具体的に示してやる必要がある。 中日はコーチ陣を西武、ロッテで監督経験のある伊東ヘッド、阿波野投手コーチ、赤堀ブルペン担当、村上打撃コーチ、中村バッテリーコーチと強力なスタッフで固めた。与田監督は「しっかりしたコーチの人たちがいるおかげなんです」と言う。ベンチでは、守備中は阿波野投手コーチが、攻撃中は伊東ヘッドが与田監督の隣にスタンバイ。密なコミュニケ―ションを取りながらチームを舵取りしている。 現在、セ・リーグのペナントレースは、貯金組と借金組で3チームずつ上下に分かれているが、その境界線の阪神と中日のゲーム差は「3.5」。混戦模様となっている。その原因の一つが大型連敗である。広島は開幕からの15試合を4勝11敗と躓き、開幕前には優勝候補に挙がっていた横浜DeNAも10連敗と苦しんだ。現在はヤクルトが11連敗中。広島が11連勝で巻き返して首位に立っているが、今後も連勝、連敗で、どう順位が動くかわからない。 「広島は、元々戦力のあるチームですよ。これは就任時から言っていますが、目標は優勝です。勝負しています。でも同時に先を見据えてチームの土台を作り改革を進めていくことが大事なんです」 与田監督の考えにぶれはない。 怪我人が続出してチーム戦力の整わない中日は、ここが我慢の時期だが、大島、ビシエド、高橋周のクリーンナップの3人が当たっているのが好材料である。今日から岐阜、名古屋で最下位の横浜DeNAとの3連戦、そして週末には巨人3連戦が控えている。理想は借金ゼロでの交流戦突入。与田中日がセのペナントのキャスティングボートを握るのかもしれない。