延命治療は是か非か…重いテーマをハートフルに描く『春になったら』で木梨憲武が教えてくれたこと
父親と娘のやり取りを見て毎週涙する、という視聴者が続出中のホームドラマ『春になったら』(関西テレビ、フジテレビ系)。 【画像】すごい…!鈴木京香「衝撃の茶髪ベリーショート」写真が美しすぎる…! ある日、父・雅彦(木梨憲武)から「3ヵ月後にすい臓がんで死ぬ」と宣言された娘・椎名瞳(奈緒)。雅彦は延命治療を拒否。今まで通りの生活を送って、3ヵ月後に死にたいと言う。そんな父の気持ちを汲むことができず、日々戸惑う瞳。実は彼女には3ヵ月後、結婚を約束した恋人がいる。雅彦は結婚に賛成していない……というのがあらすじだ。 本作が話題を呼んでいる理由は好キャスティングに加えて「延命治療を選択するのかしないのか」というテーマにもある。私のもとに寄せられた知人たちのドラマに対する意見を並べながら、考えてみたい。 ◆40~50代が選ぶのは、延命治療の拒否 『春になったら』を見て、周囲の10人ほどの友人、知人が「自分だったらどうするのか?」を話題にしてきた。居酒屋、出版社の編集部、ラジオ局など、語らったシチュエーションは様々だったけれど、結果、ほとんどが延命治療を選択しなかった。 「夫婦で見たけれど、ともに3ヵ月間、精一杯楽しく生きて死にたいとなった」(50代・男性) 「3ヵ月間で貯金を使い果たすまで遊ぶ」(40代・女性) 「弱った姿で人生を終わりたくないので、仕事をやめて田舎に戻って、両親と余生を過ごす」(40代・男性) 「家族に迷惑をかけたくないから、延命治療はしたくない」(40代・女性) 「3ヵ月後に死ぬならそれまでの日々を文章にして、最後に出版して、潔く去りたい」(40代・女性) 私自身が40代で、周囲には同世代が集まっているのが、延命治療を拒否するひとつの理由かもしれない。ドラマを見て「独身だから」とエンディングノートを書いた40代女性や、同性カップルで話し合いを持った40代の女性もいた。「遊びまくって、3ヵ月後にもし治ったらどうしよう」と心配をする声も。 ただ、20代の女性だけが「迷うけど……やっぱり生きたいので延命を選ぶかもしれません」と言っていた。これが中高年と若者世代の違いなのだろうか。あくまでも私の周囲に限った話だけれど、ドラマの影響力に感心してしまう。今、この文章を読むあなたは、どちらを選択するだろうか。 誤解してほしくないのが、あくまでも皆、前向きな意見であることだ。雅彦も同じで、延命を選ばない理由をこう説明していた。 「薬で治療をしたら、ガンと闘うだけの人間になっちゃう。それで1~2年生きて、何の意味があるんだ。だったら最後まで瞳の父親として生きたい」 雅彦と同じ選択をしている人たちも、同じ意見だろう。 ふと、“安楽死”という言葉がよぎった。思い出されるのが昨年見た『最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~』(フジテレビ系)だ。安楽死が認められている国、スイス。この国へ日本をはじめ、各国から集まってくる死を望む人たちを取材したドキュメンタリーだった。決して希死念慮ではなく、病気のまま余生を過ごしたくない人たちによる前向きな死。笑顔で死を迎える女性もいた。でもその傍らには、複雑な表情の家族がいたのである。 この家族にあたるのが、奈緒演じる娘の瞳だ。バツイチで小学生の子どもがいる、売れないお笑い芸人の恋人との結婚を当初父は大反対。一度は強行突破しようとするものの、ついには「結婚をしない」と言う瞳。心労が原因で倒れて、病院に運ばれてしまうことも……。 「父は、(中略)全然辛そうじゃないんです。今までと何も変わらないんです。(中略)でも私のほうが受け入れられなくて……。もう、どうしたらいいのか。自分のこともよくわかんなくなっちゃって」 もし自分ではなく、自分の家族が雅彦と同じ道を選んだら、素直に背中を押すことができるのだろうか。そんな疑問もわいてくる。 ◆決して後ろ向きなものばかりではない“死” 木梨憲武の24年ぶりのドラマ出演が放送開始前から話題になっていた『春になったら』。娘のことを愛しているのに、ついついぶっきらぼうになってしまう雅彦の演技。ノリさん以外に演じられる俳優がいただろうか――と、ドラマに見入る。蓋を開ければ期待以上の感動作であり、問題提起作だった。 今回、物語を通して投げかけた「延命治療をするのか、しないのか」。ここに結論はなく、あるのは選択のみ。いつ何時訪れるのかわからない不治の病に怯えることはないけれど、備える必要はあると痛感させられた。加えて、死が後ろ向きなものばかりではないと教えてくれたシーンがあった。 雅彦「全く……最悪のクジを引いちゃいましたよ、僕は。いきなり余命3ヵ月なんて、神様も意地悪ですよね」 医師「こんなクジを引くくらいなら、生まれてこないほうが良かったですか?」 雅彦「……そんなことありません。妻に死なれたりして、辛いこともありましたけど、結構好きなこと、やっていましたし。娘もちゃんと成長してくれたし」 放送は残り1ヵ月を切っている。椎名家を待つのはどんな未来か。 取材・文:小林久乃 小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k
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