『モンハンワイルズ』インタビュー。「ランス/スラアク/操虫棍/片手剣は、製品版ではかなり違いを感じられる武器種になる」(徳田D)
2024年11月、カプコンはメディア向けプレビューツアーを実施した。対象タイトルは、2025年2月28日に発売予定のプレイステーション5(PS5)、Xbox Series X|S、Steam向けソフト『モンスターハンターワイルズ』。 【記事の画像(18枚)を見る】 開発バージョン試遊後、気になったことやオープンベータテストを受けての各種調整点、本作で登場する新モンスターに関することなどの質問を、開発陣にぶつけてみた。さらに、ツアー内で実施された、開発スタジオ見学の模様もリポート。 辻本良三氏(つじもとりょうぞう): 『モンスターハンターワイルズ』プロデューサー。 (文中は辻本) ※“辻”の字は1点しんにょうです。 藤岡 要氏(ふじおか かなめ): 『モンスターハンターワイルズ』アートディレクター兼エグゼクティブ・ディレクター。 (文中は藤岡) 徳田優也氏(とくだゆうや): 『モンスターハンターワイルズ』ディレクター。 (文中は徳田) いくつかの武器はオープンベータテストとはかなりの違いが!? ゲームの細かい部分までブラッシュアップ ――まずは先日実施されたオープンベータテスト(※)に関してなのですが、これは体験版ではなくあえてベータテストにしたきっかけや狙いはあるのでしょうか。: ※2024年10月29日~10月31日(PlayStation Plus加入者対象)、および11月1日~11月4日(全プラットフォーム対象)に実施。 辻本 :今回初めてクロスプレイをすることと、サーバーやネットワーク部分で新しいことを行っております。当然社内でも技術的なテストはやっていたのですが、 しっかりとユーザーの皆さんに触ってもらう環境でのテストをやっておかなければな……という思いがあったのがまずひとつ。 また、ゲームの醍醐味の部分を、皆さんがフラットな状態で遊んでもらえる環境を作りたかったというのもあるので、ちょっと期間を区切らせたベータテストという形でやらせていただきました。 ――オープンベータテストの反響でいちばんうれしかったものはなんでしょうか。 藤岡 :(大きなエラーが起きることなく)ふつうにオープンベータ期間を楽しんでもらえていたのがうれしかったですね。今回はシームレスにゲームを展開させていきたいという考えがありましたので、ストーリーラインの見せかただったり、その中でのチュートリアルなどは、没入感を持った形で作りたいなと力を入れて取り組んでいる部分です。 その辺で、プレイヤーが引っかかって遊びにくいと感じることがないかを気にしていました。ですが、スムーズに本作の世界へ入ってくれたり、クエストを周回して何度も楽しんでくれるような人たちが出てきたりという意味では、我々の作りかたがちゃんとユーザーの皆さんに届いたのかなと。そこがとても安心材料になりましたね。 徳田 :これまでの体験版とは構造をかなり変えているんですよ。これまでの体験版やベータテストですと、クエスト単位で初心者や上級者用のクエストを提供する形でした。ですが、ユーザーの皆さんに遊んでいただきたいのがストーリーの没入感を持ってミッション的にクエストへ入っていく部分と、ある程度自由に遊びながら状況がどんどん変化していく中で、自分の遊びたいことを見つけて遊んでいくというところになります。 そのふたつを楽しんでいただきつつテストできる環境を作ったので、ユーザーさんにはどんな風に受け止められるのかなとちょっと不安視したところもありました。ですが、そこはわりとスムーズに遊み、新しい感覚として皆さんに捉えていただけたように思いましたので安心しました。 辻本 :楽しんでいただきたいところがちゃんと伝わって遊んでもらえているなという感触があったのが、いちばんうれしかった部分ですね。あとはいろいろな場で話題にもしていただけて、動画もいっぱい上がって、それこそキャラメイクだけでもいろいろ作ってもらったり。とても多くの反応がいただけたので、そういった意味では僕らにとっても大満足のベータテストだったと思っています。 藤岡 : 『モンスターハンター:ワールド』のときは、どうしてもキャラメイク時とインゲーム時で見た目に差が出やすくなっていました。構造上仕方がない部分もあったのですが、当時その部分への反響は多くいただいていたので、『モンハンワイルズ』ではかなり意識してキャラメイク部分を作り込んでいます。 キャラメイク自体の作り幅をデザイナーとも綿密に協議して、人それぞれの“かわいい”や“かっこいい”をうまく反映できるような仕組みにできたかなと思っていますので、楽しんでもらえて良かったかなと。 辻本 :オープンベータテストは完全にテスト用バージョンであるため、製品版とは異なるところがいくつかあります。さらに、オープンベータテストを踏まえて製品に反映されている要素も当然ありますので、あれが最新の形ではないということだけはお伝えしておきたいです。 ――続いて武器種に関してお聞きしたいです。オープンベータテスト版が完成系ではないというお話ですが、実施時にユーザー間で(もう少し強い武器種になってほしいと)話題になっていたランスやスラッシュアックスなど、その辺の武器種は製品版までに調整されるのでしょうか。: 徳田 :そもそもオープンベータテストには入らなかったけど、製品版では予定されていた修正点や調整点はありますし、テストを受けてさらに調整し改善していくところも当然あります。 その中で、ランス、スラッシュアックス、操虫棍、片手剣は、製品版ではかなり違いを感じられる武器種になります。逆に太刀や弓のような、手軽でありながら強力な部分、そしてそれに付随する気持ちよさをしっかり残しつつも、ダメージの与え幅などでほかの武器種とバランスを見て調整を入れるかもしれません。 ランス、スラッシュアックス辺りは、より手触りよくやれること自体の幅が増えるような形ですね。こちらが意図しているところで機能していない部分がいくつか散見されましたので、ベータテストでの皆さんの声もいただきながら、製品版ではしっかり調整していく予定です。 ――なるほど。オープンベータテストのユーザーからは「あの武器種が強い」みたいな声もあったと思うのですが、それを受けて調整を入れると……? 徳田 :強いものを下げるよりは、低いものを上げていきながら、武器種格差をできる限りなくしてバランスを取っていく方向性ですね。やはり特定の武器種が強すぎると、それ一択みたいになってしまいますし、それは我々の望むところではありませんので。あと、武器種それぞれの強い弱いだけではなく、武器種自体が持つコンセプトや触り心地が、ちゃんとユーザーさんに届いているかをかなり意識して制作しています。 ただ、オープンベータテストではすべてのスキルが入っていませんし、エンドコンテンツも考慮に入れたバランスというものがやはりありますので、そこはきちんと見定めながら製品版で対応していっております。 ――それこそ、加工屋で属性付きの武器などを作ったら、それぞれの武器の使用感とかも変わるのでしょうね。 徳田 :そうですね。たとえばケマトリス狩猟後なら火属性の武器を作れ始めます。各モンスターの属性に応じて、メイン武器とサブ武器のバランスみたいなところも体感できるようになっていると思います。 ――加工屋の仕様はこれまでのシリーズに近いものになっているのでしょうか。: 徳田 :基本的にはそうなりますが、ジェマが同じ小隊のメンバーとしてついてきてくれます。加工屋自体がこれまでよりパーソナルな存在というか、ハンターの状態とかも見ながら「いまだとこういうのがおすすめだよ」、「装備を整えないか」みたいなことも言ってくれますので、より気付きやすくなっていたりするかなと。 ――武器の調整に関してもうひとつお聞きしたいのですが、これまで斬り上げ系の攻撃やガンランスの竜撃砲などが味方を吹き飛ばす仕様だったのがかなり緩和されています。これはなぜそういった変更に踏み切ったのでしょうか。 徳田 :フレンドリーファイアに関しては、もともと入れていたのはリアリティの面もありますし、それ自体がプラスにもマイナスにもなることも加味しながら遊んでほしいというところからでした。 しかし、実際遊ぶ側になると、特定の部位に傷がついていて、そこを攻撃したいのにほかのハンターの邪魔になってしまうからやめようといったように、近年のシリーズ作のゲームテンポが加速している点も含め、やりたいことができない状況が多過ぎるなと。マルチプレイを推進しているにも関わらず、フレンドリーファイアによってちょっと萎縮してしまうところがあるのは、やっぱりよくないだろうと考えました。 オープンベータテストでもハンマーのかち上げとか、一部ぶっ飛ばしが残ってしまっていたものはあったんですけど、製品版ではその辺りもなくす形にしますし、さらに『モンスターハンターライズ:サンブレイク』で実装された緩衝珠(※)も用意しています。 ※仲間に攻撃を当てる、もしくは仲間からの攻撃が当たったときのダメージリアクションを無効化するスキルが発動する装飾品 ――本作ではサポートハンターを呼べますが、強さのバランス的にはどういう感じなのでしょうか。: 徳田 :時間効率という面では、いわゆる平均的なハンター4人が揃ったときよりは時間が掛かるような攻撃力の出し具合に調整しています。その代わり、たとえば罠を使ってくれたり、体力を回復してくれたりなど、サポートを多くしてくれるタイプのハンターさんといっしょに遊んだときぐらいのプレイ感覚を想定した調整にしていますね。 また、ゲームが進むとサポートハンターのサポート力も上がっていきます。クエストの難易度やハンターランクに応じたサポート力を維持していきますので、同じぐらいのサポート力を最後まで発揮してくれるような設計にしています。 ――サポートハンターがお膳立てしてくれて、プレイヤーが気持ちよくプレイできる、みたいな? 徳田 :そうですね。モンスターの状態も見つつ動いてくれますので、「あんなに気が利くハンターさんってなかなかいないな」っていうぐらいにはサポートしてくれます(笑)。 ――たとえば傷とかでも、サポートハンターは破壊しないで(プレイヤーに)どうぞって残してくれる状況もありそうですね。 徳田 :その辺はオプションで設定できるようになっているんですよ。傷を破壊しないだとか、乗り攻撃をしないといった項目をオプションで選べるようになっています。さらにサポートハンター自身にも、こいつは乗るのが得意で乗りやすいといったようなパラメーターを持った者とかもいますので、そういうところで個性を出しつつ、さらにオプションで好みのプレイスタイルに沿った形に調整できるようにしています。 ――ゲーム中のストーリーでは「砂嵐が来ないとその後の実りの時期もないから困る」といったような会話が出てきたのですが、ゲーム内でもそういった設定が反映されているのですか? 徳田 :そもそも荒廃期→異常気象→豊穣期というサイクルがあの地域を彩っている気象現象なのですが、それ自体がなぜ発生するのか、東地域在住の人も含めた生態環境の謎にも挑んでいってもらうようなストーリーラインにしています。 単純にそういう設定がやりたかったというよりは、その奥にあるエコシステムというか、生態系の設定に紐づいたものになっていますので、ストーリーをどんどん進めて、謎に迫っていっていただけたらなと思います。 ――隔ての砂原以外のフィールドでも、荒廃期、異常気象、豊穣期というサイクルになるのでしょうか。 藤岡 :少なくとも現在公開されている緋の森、油涌き谷では同じサイクルになっています。ストーリーを進めていただくと、どんどんそういった部分での秘密も判明しつつ、世界を感じてもらえるようになっていますので、楽しみにしていてもらえればと。 ――プレイヤーとしては、やっぱり異常気象が来たらもうすぐ豊穣期だぞってちょっと盛り上がる感じになりそうですね。 藤岡 :各時期によっていろいろなメリット、デメリットがある作りにしています。ストーリー的にも、世界ではそういう地域で生活している人々の感覚を知ることが世界観に対しての没入感になるし、それがプレイヤーの遊びにもちゃんと跳ね返る。もちろん気持ちよく跳ね返るようになっていますので、気象と一体化した世界観を楽しんでもらえると思います。 ――話は変わりますが、ゲームのパフォーマンス面についてなのですが、これは最適化などに何か工夫されていたりはしますか? あと製品版でどのような挙動を目指している、というのはありますでしょうか。 徳田 : 『モンスターハンター:ワールド』のときと同様、解像度優先のモードで遊ぶ場合はおよそ30フレーム以上が出るような形で、解像度としてはそのスペックで出せるいちばん綺麗な状態を目指して作っていますので、PS5版の解像度優先でも合計で30フレーム以上を目指して制作しております。 オープンベータテストからも最適化が進んでおりますし、その辺は感じていただけるようになっているかなと。とくにオープンベータテストではフレームレート優先モードでの描画に不具合がありまして、羽毛や髪の毛の表現でジャギーみたいなものが発生したり、ドット感があるような状態になってしまったところは心苦しく思っています。 フレームレートは出るけれども美しくない、みたいなご意見も多くいただいているのですが、その辺は現在のバージョンでもかなり改善していますし、当然製品版ではよりよくしていきますので、解像度優先、フレームレート優先のどちらでも自分の望む形で遊びやすいように、それぞれ最適化していっております。 ――試遊させていただいて、オープンベータテストでは出てこなかった施設をいろいろと見て回っていたのですが、訓練場で設定できることが多くて便利だなと感じました。これは、さまざまな武器のシチュエーションなどを考えて作られたのですか?: 徳田 :そうですね。武器種自体もやれることが増えましたが、モンスターの状態次第でできること……たとえば相殺といったモンスターの攻撃判定が発生しないとそもそも発動しないようなものもありますし、スキルもいろいろな条件で発動するものがあります。 各アクションを試す以外に、自分の装備をアップデートした際にそれが与ダメージも含めてどれくらい効果が出ているのかを細かく見ていきたいと考える方も多いと思います。そこで設定を細かくできる形のトレーニングエリアを用意しました。 ――多分、オープンベータテストのときに触りたかった人は多いと思います(笑)。 藤岡 :それは確かに。とは言えテストの場ではあり、皆さんにたくさんクエストを回してもらったほうが負荷なども見られますので。 徳田 :数値面に関しては、現段階でもだいぶ調整されているので、ベータテストのタイミングで研究などをされても、皆さんのがんばり自体が無意味になってしまいますから、そこはあえて入れなかったんだなと察していただければ(苦笑)。 ――オープンベータテストでは、ひたすらチャタカブラ相手に練習していました。 徳田 :そうなんですよ。オープンベータテストでは、チャタカブラの討伐数がものすごくく多かったです。 ――なんと。全体の討伐数をカウントされていたんですか? 徳田 :昨今はサーバーからいろいろなデータが取れます。モンスターの討伐数だったり、クエストクリアー率だったり、武器の使用率だったり。諸々そういうデータをいただきながら、開発に活かしております。 ――オープンベータテストで集計されたデータをもとに、どこをどのように改善していくのかお聞きしたいです。 辻本 :いくつかある……というのは確かなのですが、その辺に関してはまとめてお伝えするタイミングを作ろうかと思っています。オープンベータテストには入っていなかったけど、製品版では実際にこうなりますとか、テストを受けて製品版ではこうなりますとか。それらをまとめた情報をお出しますのでお待ちいただければと。 ――楽しみにしています。話は変わりますがキャンプ時の料理や村のイベントで出てきた豆料理などのビジュアルは、すごく気合いが入っていると感じました。『モンハン』といえばやはり食事や料理というところで、そこは大事にされているのでしょうか。 藤岡 :そうですね。今回、これまでのようにいろいろな要素で構築された手の込んだ料理というよりは、シンプルだけど風味や食感を感じられるようなところにフォーカスして料理の絵を作ろうというコンセプトにしています。それぞれの料理はかなり素朴なんですけど、いかに空腹をいざなう表現ができるかを試したかったんですよね。 ナンのような食べ物がちぎれる表現とか、チーズがとろける表現とかも相当数のテイクを重ねて、いまの形まで持っていけたという経緯があります。素朴だけど美味しそう、みたいなところは、かなり感じてもらえるんじゃないかなと。 徳田 :ハンターみずからがパラメーター的に賄えるようになったとはいえ、せっかく現地に住んでいる人と関わり合いがあるなら、その人たちの食に触れたりするところは、関係性を築くための表現として、食事は大切な要素だと思います。ゲーム的な意味もしっかり持たせながらも差別化していっています。 ――確かに食事は、現地の人との交流として自然な題材ですよね。 藤岡 :最初はちょっと素っ気ない対応をされる人たちに、自宅にまで招いてもらえるようになっていくとか、そういった部分で文化交流の雰囲気が表現できたらいいなと。 ――交流といえば、『モンスターハンター:ワールド』のように本作でもユーザーどうしが交流するサークル機能があるようですが、どのようなシステムなのかお聞かせください。 徳田 : 『モンスターハンター:ワールド』に近しい形にはなるのですが、サークルのメンバーが専用のチャットを通じてコミュニケーションを取れるような機能として、ゲームの最初のほうから使える形にしております。 果てしない工程を経て生まれる、独自の生態を持った大型モンスターたち ――試遊で緋の森を触らせていただいたんですが、かなり濃密な印象でした。隔ての砂原を作成したときとの苦労の違いなどはありましたか?: 藤岡 :森の鬱蒼とした感じを出したいという考えは最初からあったのですが、それは視界の悪さ問題も付いて回りますよね。いざ遊ぶとなったとき、森の雰囲気をどう描くことが遊びやすくなるのかを導き出すのに苦労しました。異常気象が起こると視界がどんどん変化していくので、そこはかなり気を遣って調整しました。 また、同じような彩りになりがちなので、ここはこういう特徴を持たせて、こういう絵にして、エリアごとの差をしっかり出して……みたいな。低い場所から上がっていくような動線にして高台に足を向けさせ、そこから緋の森全体を見てもらう工夫をしたり。 最初に言った鬱蒼とした感じは思い切って表現できたので、そこを感じ取ってもらえたならうれしいです。あと、季節に合わせて森の表情が大きく変わる様子も見物です。異常気象や豊穣期になると彩り自体が大きく変化する場所ですから、そこも楽しみにしていてもらえたらなと。 徳田 :技術的な面で言いますと、隔ての砂原に関してはいままでのシリーズにはない、ワイドで見晴らしのいい状態を作るのがひとつのコンセプト。そうするとモンスターの群れなども見えやすくなるので、その描画も含めてどう処理するかがもの凄くたいへんでした。当然砂だけでなく草も生えていたりしますので、そこもコントロールしながら、モンスターの量を管理するのに苦労しましたね。 緋の森に関しては、とにかくアセット数が多く、本当にある種でいちばん苦労したフィールドですね。隔ての砂原もプロトタイプを作るのには苦労したんですが、緋の森はもう……たいへんのひと言でした。 鬱蒼とした感じというのは、要は表示しているものが多いわけですから、それらをどう処理いくのかでもっとも苦労したマップと言ってもいいですね。 藤岡 :生えている植物も時期によって彩りが変化します。一面に花が咲いたり見た目の印象が変わるようなものもたくさん仕込んでいる様子を楽しめるエリアにできたと思います。 ――モンスターに関してもお聞きしたいです。今回の試遊で初めてケマトリスを狩猟したのですが、尻尾をメインに攻撃するモンスターで、想像とはまた別の動きをするなと思いました。何かモチーフになった生物はいるのでしょうか。 藤岡 :基本的には鶏ですが、火は使いたいというのは企画当初からありました。なぜか 『モンハン』の導入大型モンスターは火属性が多いですが、伝統的なものに近いかもしれませんね。 ただ、単純に火を吐くだけだとこれまでと表現も変わらず新鮮味がない。いろいろなアイデアをデザイナーから出してもらって、特殊なガスにヤスリのようなもの擦り合わせて火花を散らすギミックがおもしろそうだなと。 一見ちょっと鶏っぽいボリューム感でふわっとしたフォルムなんですが、ヤスリのような質感の尻尾の先端を使って火花を散らして攻撃してくるモンスターになっています。ゲーム序盤に出てくるモンスターなので、造形的にはシンプル目にして、どこが特徴なのかをわかりやすくデザインさせてもらっています。 ――尻尾を使った攻撃、かつ二足歩行のモンスターというとディノバルド(※)がいましたけど、動き自体は全然違いますね。 ※『モンスターハンタークロス』で初登場した大型モンスター。別名“斬竜”。 藤岡 :ディノバルドは斬りつけるような尻尾の使いかたをしていましたが、ケマトリスは広範囲の攻撃を得意とするイメージです。少し時間差を置いてボッと火を広げるようなところを強調しました。ゲーム序盤のプレイヤーが「特徴的な攻撃に対する立ち回りや火属性の対処をどうしよう」と悩む、“先生”的なポジションになれば……と考えています。 徳田 :チャタカブラが点で攻撃するタイプのモンスターなので、それに対しケマトリスは面の攻撃……とくに尻尾を薙ぐようなタイプの範囲攻撃に対処する必要があるモンスターを目指して作っていった結果、尻尾の長い形状になりました。 あと、攻撃時の設置面も、チャタカブラのような丸ではなく縦長にすることで、きちんと位置取りを意識しないとダメージを与えにくくなるような設計にしたくて、獣竜種の骨格を採用しています。 ――尻尾攻撃にジャスト回避を合わせようとしてだいぶ食らいました(笑)。慣れないとタイミングが難しそうですね。: 徳田 :まさしく初心者ハンターの登竜門というか、いい練習になるかなと思います。 辻本 :ケマトリスといえば、火自体の表現も、 『モンハンワイルズ』ならではの表現を使っています。 藤岡 :質感がしっかりと感じられる火ですね。ぶわっと燃え広がったりとか、何気ない表現なんですけど、雰囲気も込みで味わい深いものになっていると思います。 辻本 :あれもだいぶリテイクをくり返しました。 藤岡 :何度も検証して、研究して、やっといまの形になった感じですね。 ――また話が変わるのですが、本作では蜘蛛恐怖症対策モードがあったり、ユーザーインターフェイスのカスタマイズも細かくできたりしますね。アクセシビリティ面でのこだわりについてお聞かせください。 徳田 :“幅広いユーザーの皆さんに遊んでいただきたい”が大前提にあります。いろいろな環境で遊ばれる方が昨今増えてますので、あらゆるニーズに対応できるようなオプションやアクセシビリティはかなり意識して対応しています。 蜘蛛恐怖症対策モードについては、おもにブブラチカという小型モンスターに関係するものです。リアルな表現ができるようになった結果「これがあるだけで買いにくい」、「踏み出しにくい」といったような意見をテストの方からもいただいています。そういった部分に対してゲーム性の根幹を揺るがさない形での表現で検証を進めまして、あのような対応をさせていただきました。 辻本 :あの辺は開発途中でチーム内から出てきた意見を反映して、オプションとして実装した感じですね。 藤岡 :虫とか蜘蛛は、どうしても心理的に来る人がいらっしゃいますので、そこで変にブレーキがかからないようにしておきたいなと。 ――蜘蛛というと、大型モンスターのラバラ・バリナは何らかの配慮はあったりしたのでしょうか。 藤岡 :そこはあまり意識せずに、思い切った形で鋏角種のモンスターデザインに取り組んでおります。きちんと虫らしいというか、蜘蛛らしい造形の蜘蛛、ですね。キャラクターとして魅力あるものにしたい気持ちも当然あるので、薔薇の要素だったり、ややファンタジックな要素で全体のキャラクターを感じてもらえるとうれしいですね。 ――そのラバラ・バリナはどういった感じのモチーフだったりするのか、ババコンガもこれまでのシリーズから変わったところがあるのかとか、緋の森のモンスターについてお話をおうかがいできればと。: 藤岡 :ラバラ・バリナは、薔薇のようにパッと咲く瞬間と、閉じているときのコントラストの表現にかなり苦労しました。もともとはいまとは違うデザインだったのですが、いろいろな案を統合していった結果、バレリーナのしなやかな手足のような感じを活かした動きのモンスターにしようと。 姿勢が変わったときに、それが特徴的に見えるように。デザイナーからも、アイデアとしてバレリーナのようにクルクル回る動きが出てきたので、そこから羽毛のような、ファーのようなものをまとわせたりして肉付けしていきました。 ただ、瞬間的に存在感を表現できる部分も入れたいなとなり、最初にお話した薔薇がパッと広がる表現を入れつつ、それが特徴的な攻撃に繋がるように、綿毛を降らすような行動を入れています。単純な飛び道具ではない時間差を持たせた仕掛けと、それに対するプレイヤーのポジション取りで遊びを作っていけるようなモンスターになったかなと。 徳田 :ラバラ・バリナは回り込み行動を多用するモンスターなのですが、それによってカメラ操作だったり、ターゲットロックだったり、ケマトリスとは違う方向性でゲームの操作に習熟していただくという意図があります。先ほど話が出た綿毛降らしで空間を認識しながら、さらに回り込んでくる本体に対してうまく追従しながら立ち回ってもらう、みたいな。 ――1対1を意識し過ぎていると、降ってきた綿毛を食らったりしてしまうと。 徳田 :はい。周囲への認識とモンスターへの認識両方を意識しながら立ち回ることで、状況把握やカメラ操作に慣れていただきたいなと。 藤岡 :綿毛は攻撃して破壊できたりとかもしますし、マルチプレイ時にはサポート寄りに行動する人も出てきて、そこでプレイヤー間の連帯感が生まれやすくなるかなと。とはいえ一撃ですぐ麻痺するというわけではないので、気負ったりせずラバラ・バリナ狩猟時独特の立ち回りを素直に楽しんでもらえればと思います。 ――実際に遭遇するときが楽しみです。ババコンガはいかがでしょう。 藤岡 :既存のモンスターは表現力も込みでしっかり作り直しました。過去シリーズでは愛嬌ある仕草が独自のキャラクターとして皆さんに感じてもらえている部分もあったので、そこはきちんと表現しつつ、森の奥底にいるような雰囲気とともに特徴のあるモンスターに仕上がったかなと思います。 徳田 :ババコンガは、僕が『モンスターハンター2(ドス)』のときに初めてプランナーとして作った大型モンスターなので、すごく懐かしい気持ちになりました。 本作では新人がババコンガを担当してくれたんですけど、いっしょに当時のことを紐解いていって。キノコを食べてパワーアップする要素もより現代的に強化しようとしたり、残していく技と追加する行動を吟味しながら調整しました。 ――東京ゲームショウで発表したときも、ユーザーの反響が大きかったですね。 徳田 :そうですね。あんなに喜んでいただけるとは思いませんでした。 藤岡 :ババコンガ史上、あれが最高潮だったと思います(笑)。 まるでモンスターのようにアクターが吼える! 『モンハンワイルズ』のアクションシーンやサウンド作成の裏側 取材ではカプコン社内にある開発スタジオ関連の見学もできた。ここでその模様をお伝えする。 まず案内されたのは、登場モンスターやハンターのアクションシーンなどの開発を行っている“モーションキャプチャースタジオ”。ここでは、いわゆるモーションキャプチャースーツをアクターが着込んで演技を行い、その動きを機材で録り込んでから加工や調整の後にゲーム映像へ仕上げていくといった作業を行う。 実際にアクターの方々にハンターの攻撃や、モンスターとハンターの鍔迫り合いの様子をアクションしていただいたが、目前で見るで迫真の演技は迫力満点。 驚きなのは、アクターの動きを録り込んだだけの映像が、そのまま実機に近い環境で流しつつキャラクターを動かせるという点。その時点でもゲーム映像に極めて近いものになっており、技術力の高さがうかがえた。 アクターの方々は、演技するうえでモンスターのように咆哮したり、ハンター役は大きく雄たけびを上げたりといったことを行っていたが、ご本人たちいわくそのほうが気持ちが入るし、より洗練されるからとのこと。 続いては、おもにゲーム中のBGM作成を行う“サウンドスタジオ”。大規模なシンセサイザー機材が設置されており、さまざまな音源を元に、ゲーム中の静かな曲から荒れ狂う嵐のような曲まで、いろいろな音楽を制作している。 実際にゲーム映像とともにメインテーマを聞かせていただいたが、音響設備の豪華さもあり、最後まで聞き入ってしまった。 なお、サウンド関連にもストーリーの根幹に関わってくるネタが仕込んであるとのことなので、ゲーム発売後は、ストーリーを進めると同時にさまざまな音楽に耳を傾けてみて欲しい。 ラストは、効果音やモンスターの咆哮などの作成を行っている“フォーリースタジオ”。ここでは日用品などを組み合わせた独自の楽器を使用し、特徴あるユニークな音源をもとにさまざまな“音”を作成している。 パイプ状のものをベースに作られた謎の楽器で音を出す。 レ・ダウの咆哮がどのように作成されるかの流れを、独自楽器の演奏とともに見させていただいた。楽器が発する音自体は「ピーヒョロー」といった、モンスターの咆哮とはかけ離れたものだったが、いくつかの音を組み合わせ、さらに加工&調整を行うことで、見事レ・ダウの咆哮に様変わり。 楽器の数々は、「こういった音が欲しい」といった要望をもとに日用品や金属などを組わせながら作り上げていくという。経費はそこまでかからないが、金属加工が必要なものは外部に作成依頼を出すため、期間や費用もかかるときがあるとのこと。 ゲームの根幹部分から、映像、音楽と、じつに多くのスタッフ群の手によって制作が進められている『モンスターハンターワイルズ』。記念すべき発売日まで、あと約3ヵ月の辛抱だ。