『ONE DAY』存在感が大きくなる中川大志 心の変化が見て取れる繊細な表情演技
ふと気がつくと隣に銃殺されたと思われる遺体が隣に横たわっており、あれよあれよという間に自身は記憶喪失のまま事件の容疑者として追われる身となってしまった誠司(二宮和也)。その事件をいち早く報道し、真実を明らかにしようとあらゆる手を尽くしているが、テレビ局内のいざこざも関わってきてなかなかうまく事を運べない桔梗(中谷美紀)。誠司が突然店に逃げ込んできたために創業から大事にしてきたデミグラスソースを盛大にこぼしてしまったが、なんとかして大事なクリスマスディナーを実施しようと従業員とともにドタバタしている時生(大沢たかお)。『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)では、全く関係がないと思われた3人の間の、過去の関係性が明らかになり、そこへさらに新たな関係性も出来始めて、別々に描かれてきた1日がいよいよひとつになり始めている。 【写真】『ONE DAY』中谷美紀インタビューカット そんな中で今後、存在感が大きくなりそうなのが、中川大志が演じる国際犯罪組織「アネモネ」の2代目ボス・笛花ミズキだ。誠司は自分が「アネモネ」に所属していると聞かされているが、もちろんその記憶はない。 ミズキは立場上、誠司のボスに当たると思われるのだが、誠司を慕っているらしく何かと気にかけ、ふらりといなくなる誠司の居場所を特定するために携帯のGPSまで追跡している。ただし、誠司はミズキをそこまで信頼しているわけではないようで、基本的に携帯の電源は切っていた。久しぶりに電源が入ったかと思いきや、その携帯は他人のものと入れ替わって、時生のものとなっていたのだから運命はいたずらである。 中川は13歳のときに出演した『家政婦のミタ』(日本テレビ系)で長男・阿須田翔役を演じ、注目を集めるとその後、『水球ヤンキース』(フジテレビ系)など数々の青春ものに出演。20代に入ってからは、NHK連続テレビ小説『なつぞら』でヒロインの夫となる坂場一久役を演じて幅広いファンを獲得した。 中川は年齢としては若手に分類されるが豊富な経験から培った、演技力が大きな強みだ。ひとりの人間の中にある陰と陽を巧みに演じ分けることができる。植物学者の父・牧野富太郎をモデルとした天才植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の生涯を描いたNHK連続テレビ小説『らんまん』では、終盤に資産家の青年・永守徹として登場。おじの莫大な資産を継いで資産家となった永守は万太郎が植物図鑑を発刊するための費用を支援したいと申し出た。実はこの申し出には、守永自身が徴兵されることが決まっていたため「自分が生きた証」を残したいという願いが込められていた。万太郎はその申し出に感謝したうえで「無事お戻りになるまで待つ」と、その時点では支援を辞退。自分のことだけではなく、周囲の人のことを考えられる万太郎の人柄がよく伝わる一場面となった。 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、畠山重忠を演じた中川。畠山は自身の息子が北条時政(坂東彌十郎)の息子を毒殺したという疑いをかけられ激怒し、戦をしようと兵を整える。北条義時(小栗旬)の説得により一時は取りやめようとするが、息子が由比ヶ浜で討ち取られたことを知ると全滅覚悟で挙兵を決意。使者としてやってきた和田義盛(横田栄司)から生きるよう説得されるも「戦など誰がしたいと思うか!」と心情を吐露しながらこれを拒否したのだった。家族を愛する気持ちと息子を奪われた悲しみ、そして恐らく1人残していくことになるだろう、妻に対する申し訳なさ。複雑で言葉にしがたい激情を中川は瞳で語っていた。繊細でありながら心の変化がはっきりと見て取れる表情は素晴らしいものだった。 ミズキは犯罪組織のボスとして、自分より年上かつ体格の良い男たちを冷静な言葉で従わせ、しっかりと指揮を取る一方、誠司のGPSを追って入ってしまった葵亭では、勘違いされたことをきっかけに見習いシェフのフリをすることでその場を切り抜けた。「アネモネ」とは違ってちょっと陽気でコミカルな雰囲気のある葵亭にも馴染んでみせたミズキ。中川の演技力は本作でも遺憾なく発揮されているといっていいだろう。 誠司の味方のようで、その動向を誰よりも気にしているミズキの姿は、まだ明かされていない“何か”を隠しているようにも見える。ミズキの真の狙いは何なのか。これが今後のひとつの注目ポイントになるかもしれない。
久保田ひかる