「水金地火木土天アーメン」が頭から離れない 山田尚子監督『きみの色』の“いまっぽさ”
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、高校時代はバンドでギターを弾いていた宮川が『きみの色』をプッシュします。 【写真】『きみの色』場面カット(複数あり) ■『きみの色』 〈水金地火木土天アーメン きのうのごはんはあったかソーメン〉という謎の歌詞が頭から離れない。おそらく『きみの色』を観た大多数の人は、劇中バンド“しろねこ堂”によるオリジナル楽曲「水金地火木土天アーメン」にやられてしまうはずだ。 『映画けいおん!』や『映画 聲の形』、『リズと青い鳥』など、これまで数々の作品を世に送り出してきた監督の山田尚子と脚本家の吉田玲子。『きみの色』は、そんな黄金タッグが“音楽”と“青春”をテーマに、高校生の瑞々しい思春期を描いたオリジナルの長編アニメーション映画だ。 主人公は、全寮制の学校に通う、人が“色”で見える女子高校生の日暮トツ子。そんなトツ子が、同じ学校に通っていたが突然中退してしまった作永きみ、離島に住む音楽好きの少年・影平ルイと出会い、バンドを組むことになる。それぞれに悩みを抱えている3人が、“音楽”を通じて成長していく。 バンドといえば、オーソドックスなメンバー構成は、ボーカル、ギター、ベース、ドラム。スリーピースの場合は、ボーカル&ギター、ベース、ドラムの場合が多い。だが、トツ子、きみ、ルイの3人が組んだバンド・しろねこ堂は、ピアノ(トツ子)、ボーカル&ギター(きみ)、テルミン&オルガン(ルイ)という異色の編成。彼女たちが抱えている“悩み”には現代の若者が抱える悩みが反映されているが、彼女たちが生み出す音楽にも“いまっぽさ”が感じられる。 冒頭に記した“耳から離れない”しろねこ堂のオリジナル楽曲「水金地火木土天アーメン」をはじめ、“音楽”が重要な要素を担っている本作の音楽を手がけているのは牛尾憲輔。山田監督とは『映画 聲の形』以降の作品でタッグを組み続けている。映画やアニメーションの劇伴を手がけるだけでなく、元SUPERCARの中村弘二とフルカワミキ、元NUMBER GIRLの田渕ひさ子と組んだバンド・LAMAや、電気グルーブのサポートメンバーとしても活動している牛尾。そんな彼自身のバックグラウンドも、作品自体や登場人物たち、そして彼女たちが生み出す音楽に、かなり大きな影響を与えたのではないだろうか(劇中で流れるUnderworldの「Born Slippy Nuxx」のカバーはさすがに驚いた)。 トツ子役の鈴川紗由、きみ役の髙石あかり、ルイ役の木戸大聖のメインキャスト3名は、1600人におよぶオーディションから選ばれただけあって、さすがの演技力。特にドラマや映画でも活躍している髙石と木戸は、言われなければわからないほど、普段とは違う声でそれぞれのキャラクターを体現していた。 また、本作の企画・プロデュースには、『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』などの新海誠監督作品のほか、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』や『未来のミライ』などアニメーション作品も多数手がけている川村元気が名を連ねている。ヒットメイカーである川村と山田監督との初タッグ作でもある本作。興行的にどこまで数字を伸ばせるかにも期待がかかるが、つい口ずさみたくなってしまう「水金地火木土天アーメン」の口コミ効果で、大ヒットにつながる可能性も!?
宮川翔