横着? 大胆? 英国の映画宣伝 チラシもパンフも存在せず 巨大広告でアピール
日本で配給会社に勤めていたこともあって、日英の映画宣伝の違いが興味深い。日本では1本の映画が公開されるまでに、日本版のポスターや予告編、チラシ、パンフレットを制作する。言いかえれば全て日本オリジナルのものを用意するということだ。それに加えて、新聞、雑誌、ウェブメディアに対して映画評の掲載を働きかけ、監督や俳優が来日してくれればインタビューをセッテイングする。これを半年前後の時間をかけて行う。キャッチコピーを考えたり、あらすじやイントロダクションをまとめたりするのも、基本的に日本独自の仕事である。 【写真】イラストで描かれた英国版「怪物」(是枝裕和監督)のポスター。 さて、ロンドンではどうかといえば、まずチラシ、パンフレットはこの国に存在しない。ポスターや予告編はオリジナルで作られることもあるが、これも配給会社次第で必ずしも全て英国版だとは限らない。ポスターのキャッチコピーも、あったりなかったり。
英語圏ならでは 情報は世界標準
雑誌文化はあってないようなものだ。本屋に雑誌コーナーはなく、雑誌を見つけられるのはスーパーマーケットの一角か、駅近くのコーヒースタンドのような場所、もしくはこちらのコンビニと言われるオフライセンスの一部のみだ。しかもそれらもカルチャー雑誌というより、ビジュアル重視のファッション誌やゴシップ誌に近い(それゆえに日本の雑誌は世界的に有名である、というのはまた別の話)。それでは見たい映画の公開情報も、前評価も手に入らないではないか。 しかし個人的にこの国で生活していて感じるのは、英語を使えれば世界中の情報が手に入るということだ。アメリカ発の映画ならば、遅くても本国の公開から3カ月前後でロンドンで鑑賞できる。その3カ月の間にアメリカ版のトレーラーが流れ、オープニング成績などの情報が入ってくる。頭の片隅に置いたタイトルが、公開の直前直後に街中やソーシャルメディアで目に入ってきたら、映画館に行く動機に十分なるのだろう。 映画雑誌と言えるのは、BFI(英国映画協会)が発行する「サイト・アンド・サウンド」、紙を発行しているロンドンベースの映画媒体「リトル・ホワイト・ライズ」ぐらいか。いずれも基本的に定期購読で、BFIのギフトショップを除き店舗で見かけることはない。大手日刊紙「ガーディアン」など新聞の映画評もあるが、日本よりさらにオンライン化が進んでいるロンドンでは、なんでもウェブ上で読めてしまう。さらに、英語圏ゆえ「インディーワイヤー」「バラエティ」などアメリカの映画サイトで事足りてしまうのも事実だろう。