乳がん手術後、ホルモン療法で体重が増加しました。太ると再発しやすいと言われて不安です
Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
がん研有明病院院長補佐の高野利実さんが、がん治療に関する素朴な疑問にQ&A形式でお答えします。 【写真4枚】体力が落ちたと思ったときに…筋力アップ まずは20秒から
肥満の人は乳がんが再発しやすい?
閉経後の女性では、肥満の人の方が、乳がんを発症しやすいと言われています。ただ、乳がんの発症にかかわるリスク因子は他にもいろいろとありますし、そもそも、そういうリスク因子がなくても、誰もが、がんになる可能性がありますので、「特定の何かのせいでがんになった」と考えるのは適切ではありません。 太り気味の女性が乳がんになったからといって、体重のせいで乳がんになったという可能性は極めて低く、それで自分を責める必要はありませんし、他人からそう言われる筋合いもありません。 乳がんと診断されたあとも、肥満の人の方が、乳がんを再発しやすいと言われていますが、体重だけで再発が決まるわけでもなく、また、体重を減らせば再発の可能性が減るのかどうかもわかっていませんので、「再発を防ぐためにやせなければ」と思い詰める必要はありません。 早期乳がんの手術後に、内服のホルモン療法を受ける方は多く、今も全国で何十万人もの方がホルモン療法を継続中ですが、よく聞く悩みが、体重増加です。ホルモン療法の副作用として、体重が増えることもあるようです。 体重が増えて、体調や見た目が気になるというだけでなく、乳がんとの関係を気にする方も多くいます。「体重が増えると再発しやすい」なんていう話を聞けば、当然不安も増します。ただでさえ、再発の不安にさいなまれながら過ごしているのに、安心のために受けているホルモン療法でも不安要素が増えてしまうなんて、と思うでしょう。なかなか体重を減らせず、担当医から、診察のたびに「体重減らさなきゃダメ」と言われ、努力が足りないと自分を責めてしまっている方もいます。
「体重で不安になる必要はありません」
「ホルモン療法中に体重が増えて再発が心配」という患者さんへの、私からのアドバイスは、こうです。 「体重と再発を結びつけて不安になる必要はありません」 「ホルモン療法など、再発を減らすためにやるべきことはやっているので、それ以上何かをしなければ、と思わなくて大丈夫です」 「体重が気になるなら、食事や運動を工夫してみるとよいと思いますが、ラクな気持ちで、無理なく取り組みましょう」 がん患者さんを対象に、「食事内容を変えるように指導する」「運動するように指導する」といった、生活習慣への介入の効果をみた臨床試験は数多く行われています。効果の指標として体重減少を評価しているものもありますが、がんの再発を減らすことや、生活の質(QOL)を改善することを主な指標として評価している臨床試験が多いです。 臨床試験の結果はいろいろですが、食事については、食生活を変えたり、特定の食品を摂取したりすることで再発を減らせる可能性はあまりなさそうです。食事は本来楽しむためにあるものですので、がんと結びつけたりせず、おいしく、楽しく食べるのが一番です。 運動については、再発を減らせるかどうかは明確にはなっていないものの、運動によって、QOLの改善は期待できそうですので、気持ちよく取り組めるのであれば、運動してみるのがよいと思っています。 運動とがんの関係を探究する「エクササイズ・オンコロジー(運動腫瘍学)」という新しい学問分野については、この連載でも紹介したことがありますが、今後、がん患者やがんサバイバーに、どのような運動が勧められるのかについての研究や議論が盛んになりそうです。 食事や栄養とがんの関係を探究する「ニュートリション・オンコロジー(栄養腫瘍学)」も、これから注目されるかもしれません。 これらの学問が発展すると、どうしても、「運動しなければいけない」「食事に気をつけなければいけない」という「マスト」の文章が増えてしまう懸念がありますが、研究者や医療者の価値観を押しつけるのではなく、がん患者さんの、「何を大切にしたいのか」「どのような状態でいたいのか」という「ウォント」から考えるのがよいと思っています。 ホルモン療法中の乳がん患者さんの「ウォント」としては、「再発したくない」「体重を減らしたい」「気持ちよく過ごしたい」などがあります。 「再発したくない」というのは、切実な「ウォント」ですが、「食事」や「運動」を工夫することや、「体重」を減らすことで、乳がん再発が減るかどうかは明確ではなく、影響があったとしてもわずかと考えられます。再発に関係するリスク因子が他にもいろいろある中で、それにあった治療を選択し、やるべきことはやっているわけですので、これ以上考えすぎないのがよいと思います。