『ブギウギ』柳葉敏郎がすっかり“ダメ親父”の有様に “三尺四方”に窮するスズ子と辛島たち
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第41話では、ツヤ(水川あさみ)が天国へ旅立ってから1年後が描かれた。 【写真】戦争一色になってしまったスズ子(趣里)が歌う舞台(11月28日の『ブギウギ』) ゴンベエ(宇野祥平)と光子(本上まなみ)にはな湯を譲り、東京でスズ子(趣里)と暮らし始めた梅吉(柳葉敏郎)。最初こそ、「今度こそ映画で一花咲かせたる」と息巻いていた梅吉だが、早々にペンを折って呑んだくれる日々を送っていた。酔っ払ってスズ子にも迷惑をかける姿に正直、がっかりした人もいるだろう。情けないところもあるけれど、どんな時も家族を気にかける良いお父ちゃんだったのに……。今やすっかり、朝ドラで久しく見ていなかった“ダメ親父”の系譜を引いている。 一方で、最愛の妻を失った上に、大事な息子が戦地に行ってしまった梅吉の苦しみはもちろん理解できる。お酒で気を紛らわせていなければ、どうにかなってしまいそうな気持ちも。なにより、梅吉自身が一番そんな自分を情けないと思っているのだ。「泣いても喚いても嫁はんは帰ってけぇへんど」と、妻に逃げられた伝蔵(坂田聡)に向けた言葉で自分にも言い聞かせる梅吉はあまりにも切なくて、見ていられなかった。 だが、もっといたたまれないのが、スズ子の無理して作った笑顔だ。スズ子も梅吉の気持ちが分かるだけに強くは責められないのだろう。そんな彼女をチズ(ふせえり)は気遣ってくれるが、梅吉のためにも感傷的なムードは出せない。どうにか平静を装って仕事に向かうが、時は昭和15年。ぜいたくを禁止する法律が施行され、梅丸楽劇団(UGD)は華美な演出が一切できなくなってしまう。 そのことで大きな打撃を食らうのが、派手な化粧で歌って踊るスタイルが世間に定着しつつあるスズ子だ。楽団を監督することになった丸の内署の警察官は、スズ子にトレードマークのまつげを外し、“三尺四方”の枠からはみ出さずに歌うことを強要。すると、「いずれそっぽ向かれちゃうよ」という羽鳥(草彅剛)の不安は的中し、公演中もつまらなさそうにしている観客の姿が目立つようになる。居てもたってもいられなくなったスズ子は、思わず枠からはみ出したことで警察に連行されてしまうのだった。 取調室で警察に反抗しては、何度も連行されているというりつ子(菊地凛子)とすれ違うスズ子。果敢にも「着飾って何が悪い!」と警察官に怒号を飛ばすりつ子が、スズ子には羨ましく感じられたのではないか。本当はスズ子だって警察の言いつけに従いたくなどない。かつて善一に言われた通り、スズ子は私生活での嬉しいことも辛いことも歌や踊りに昇華してきた。本来ならば、梅吉があんな状態の時だからこそ、パフォーマンスにぶつけたい気持ちがあるはずなのに。公演が停止されてしまえば、楽団のメンバーにも迷惑をかけてしまうのでそれも叶わない。身も心もまさに三尺四方に囲まれてしまっている。 しかし、比べるつもりは毛頭ないが、苦しい状況にいるのは他の人たちも同じだ。自分の楽団を抱えているりつ子にも、UGDの制作部長である辛島(安井順平)にも守るべきものがある。警察の指導に従うか従わないかで違いはあるものの、どちらも死守したいのは楽団員が活躍する場であることに変わりはない。こんな時だからこそ、公演が途中で中止になり、謝罪に追われる辛島に「あんたらも大変だな」と声をかけた観客の優しさが胸に沁みる。
苫とり子