【イベントレポート】藤原季節ら祝福、金允洙の長編デビュー作「あるいは、ユートピア」東京国際映画祭で披露
第37回東京国際映画祭が本日10月28日に開幕。Nippon Cinema Now部門の出品作「あるいは、ユートピア」が東京・TOHOシネマズ シャンテでワールドプレミア上映され、本作で長編監督デビューを果たした金允洙(キム・ユンス)、キャストの藤原季節と渡辺真起子が登壇した。 【写真】東京国際映画祭に出席した藤原季節 「あるいは、ユートピア」は大量発生した謎の巨大生物によってホテルに残された12人を描く群像劇。非暴力・不干渉を合言葉に、閉ざされた空間で助け合いながら平穏に暮らす彼らだったが、あるとき1人の人物が遺体となって発見される。2021年の第34回東京国際映画祭にて、第1回Amazon Prime Videoテイクワン賞を「日曜日、凪」で受賞し、賞金100万円とAmazonスタジオでの長編製作の機会が与えられた金が3年越しで完成させた。 舞台挨拶には、3年にわたってAmazon Prime Videoテイクワン賞の審査委員長を務めた行定勲も出席。「お疲れ様でした。映画は完成しない場合もあるので、作り上げたことは僕自身もうれしい」と金をねぎらい、「これだけの群像劇、しかもこんなに素晴らしい俳優たちを配して、気負うことなく表現できたのは本当に素晴らしい」と称賛する。また「配信を意識した部分もあると思うけど、引きを多用した演出へのこだわりを感じました。『風の谷のナウシカの王蟲みたいな』というセリフ1つで、外の世界を借景していたのも巧みだなと思います」と続け、物語の結末については「裏切られた。今を生きる若手監督が作る着地点だと感銘を受けました」と言及した。 主人公の小説家を演じた藤原は「金監督の商業デビュー作品に出演者として立ち会えたことが幸せです」と笑顔を浮かべ、本作の脚本について「争い事が起きそうなシチュエーションでも起きなかったり、外の世界は破滅に向かっている中で人々が無関心でいるのがすごく現代的で面白い。みんなが規律を守ることで聖域のような場所が誕生していく過程も面白いと思いました」と感想を伝える。劇中で虫に触れるシーンがあり、藤原は「虫に慣れなきゃいけなかったので、(撮影中は)寝泊まりする部屋に虫を持ち帰っていました。でも夜に電気を消してカサカサ聞こえてくると、うわーっとなるんですよね」と撮影を振り返って苦笑した。また第1回Amazon Prim Videoテイクワン賞で審査員を務め、本作に出演もした渡辺は「当時の金くんの佇まいや作品に力があり、未来につながってほしいという思いを込めて投票しました。審査に関わった者としてもうれしいです」と完成を祝福した。 ストーリー着想のきっかけを尋ねられた金は、仕事で地方へ行った際、マンションの一室に閉じ込められた経験が関係していると明かす。音響については「見えない何かの存在を想像させるには音に頼るしかない。音響スタッフとこだわって作りました」と説明。また藤原や渡辺のほか、渋川清彦、原日出子、麿赤兒らそうそうたるキャストがそろったことに対して「ほぼ僕の理想通りに集まっていただけました。衣装合わせのあと、皆さんの写真を並べて見たら、失礼なんですけど……動物園みたいだなと。戦々恐々としていました」と当時の心境を明かして笑いを誘った。 最後の挨拶では、藤原が「個人的な話になるんですけど」と切り出し、「この作品は自分にとって2年ぶりの映画でした。いろいろ企画が頓挫したりして、やっぱり僕じゃダメなのかなと思っていたとき、この物語が届いて感謝しています」と感慨深げに口にする。金は「3年前に受賞したとき、舞台上で『東京国際映画祭に長編映画で戻ってきます」と高らかに宣言したので、実現できて安心しました。この3年が長かったのか短かったのか今の僕にはわからないですが、またこの映画祭に戻ってくると思います」と誓い、「映画祭、楽しんでください」と観客に呼びかけた。 第37回東京国際映画祭は11月6日まで開催。 ※「あるいは、ユートピア」はR15+指定作品