米大統領選の大きなカギ、「不動産問題」はトランプにとって追い風か、急所になるか
深刻な住宅不足から価格が急騰
さらに、米国人にとって夢であるマイホームが「高嶺の花」になってしまったという「不都合な真実」も明らかになりつつある。 不動産情報サイト「ジロー」が2月28日に発表した調査結果によれば、現在住宅を購入するために必要な年収は10.6万ドル(約1600万円)超となり、2020年に比べて4万7000ドルも増加した(伸び率は約80%)。 ローン金利とともに住宅価格そのものが高騰していることが災いしている。2020年時点では米国の半数以上の世帯が住宅を所有する経済的な余裕を持っていたが、現在の住宅価格に必要な年収の水準は中央値(約8万1000ドル)を上回っており、大半の世帯にとって住宅は手の届かないものになってしまった(3月1日付ブルームバーグ)。 バイデン政権は「高圧経済政策(経済を政策的に需要超過の状態に誘導して景気回復を図るやり方)」を推進してきたが、需要の急拡大に見合った住宅の生産増が出来なかったため、深刻な住宅不足に陥り、価格の急騰が起きてしまったというわけだ。
米国経済が急速に悪化する可能性
米国政府は5日、手頃な価格の住宅供給を後押しするための新たな措置を発表したが、「泥縄」の感は否めない。 住宅用不動産市場が過熱しているのに対し、商業用不動産市場は冷え込んだままだ。米国の1月の商業用不動産の差し押さえ件数は前月比17%増の635件となった。前年と比べると約2倍の多さだ(2月23日付ブルームバーグ)。 世界の金融システムを動揺させた米地銀シリコンバレーバンクの破綻から10日で1年が過ぎたが、商業用不動産ローンの不良債権化が今後膨らむとの懸念が生じている。商業用不動産ローンで中心的な役割を果たしている地銀が今後、相次いで破綻する事態になれば、米国経済が急速に悪化する可能性は排除できないだろう。
トランプ氏の追い風と泣き所
住宅用と商業用、2つの不動産市場で問題が生じている現下の情勢は、132年前のクリーブランドに続いて2人目の「返り咲き大統領」を目指すトランプ氏にとって追い風だ。 だが、「泣き所」もある。 多額の訴訟費用を捻出する目的で自身が保有する商業用不動産を売却しようとしても、市場価格が急落しているため、十分な資金を確保できず、長期にわたる大統領選を戦うことが難しくなっている(3月1日付ブルームバーグ)。 不動産の状況は米国人の生活を大きく左右する。「大統領選の勝敗を決する」と断言するつもりはないが、その動向が今後大きな影響力を持つことになるのではないだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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