アメリカと中国、緊張関係の中でも「協議拡大」と米大使
ローラ・ビッカー中国特派員 アメリカと中国は、「論争的で競争的な」関係にあるにもかかわらず、南シナ海での紛争を回避するために定期的な協議を増やしている。中国駐在のアメリカ大使が、BBCのインタビューで明らかにした。 BBCのローラ・ビッカー中国特派員は今週初め、ロバート・ニコラス・バーンズ大使に、米中関係についてインタビューを実施。その中でバーンズ氏は、「米中両軍は、南シナ海や台湾海峡で至近距離で活動している。間違ったシグナルを送りたくはない」と語った。 南シナ海は危険な火種となっており、中国の主張は台湾やフィリピン、さらには両国を強力に支援する友好国アメリカとの緊張を高めている。 中国とフィリピンの船はここ数カ月、争いの絶えないこの海域で危険な駆け引きを繰り広げてきた。今週起きた小競り合いでは、中国海警局の職員がフィリピンの船に乗り込み、剣やナイフで兵士を襲ったとされている。 一方のアメリカは、フィリピンや日本などと複数の軍事同盟をつなぎあわせており、南シナ海で協力国の権利を守ると約束している。 そしてこのことが一層、アメリカと中国との関係悪化につながっている。米中関係はすでに、ロシアのウクライナ侵攻、中国と台湾の緊張関係、そして貿易戦争によって大きく揺らいでいた。 バーンズ大使は、こうした問題は今なお、両国を「完全に分断」する火種だと認めた。その反面、可能な領域については「人々をまとめる」努力が重要だと述べた。 「中国は、アメリカと軍同士のコミュニケーションを増やすことに同意した。これは我々にとって非常に重要なことだ。コミュニケーションは不可欠だ。なぜなら、事故や誤解から紛争に発展することは、絶対に避けなくてはならないので」 緊張は和らいでいるが、11月に迫るアメリカ大統領選挙が、再び両国関係を混乱させる可能性もある。 「我々は中国に対して、いかなる形であれ、我々の選挙に関与しないよう警告してきた」とバーンズ氏は述べたが、その可能性について「非常に懸念している」と付け加えた。 米連邦捜査局(FBI)はこれに先立ち、中国はおそらく引き続き、アメリカの分裂を助長しようとするだろうし、オンラインでの偽情報拡散にもかかわるだろうと警告している。 バーンズ大使は、FBIはアメリカに対する「中国当局によるサイバー攻撃」の証拠も握っていると述べた。中国政府は、国家が関与するサイバー戦争の疑惑を常に否定しており、自国もこうした犯罪の被害者だとしている。 ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領はどちらも、中国への強硬姿勢は票につながるという考えから、対中強硬路線で互いに競い合っている。 バイデン大統領は5月、中国製の電気自動車(EV)やソーラーパネルなどに新たな関税を課すと発表した。アメリカに輸入されるEVはほとんどないが、バーンズ大使は、この決定に国内政治が影響したわけではないと述べた。 大使は、この関税はアメリカの雇用を守るための「経済的な動き」だと説明。一方、中国は報復措置として独自の関税を発動する可能性があると警告している。 しかし、この対立関係にも明るい兆しはある。 BBCのインタビューの前に、バーンズ大使は中国の気候変動特使との会議に出席した。世界最大の汚染国となっている米中両国が、有害な排出ガスを減らす策を探そうと模索しているのだ。 両政府間ではほかにも、麻薬性鎮痛剤フェンタニルがアメリカに流入するのを防ぐための「ハイレベル協議」が開催されており、バーンズ氏はこれを「極めて重要」だと表現している。 バーンズ氏が出席する会議のほとんどは、閣僚レベルで行われている。中国の習近平国家主席との会見は、アントニー・ブリンケン国務長官など、アメリカ高官が訪中した際に限られているという。 両国はまた、「人的交流」をさらに促進していくことも約束している。これは、中国で学ぶアメリカ人学生の数が2011年の約1万5000人から800人に減少したことを受けてのことだ。 習国家主席は、向こう5年間でアメリカ人学生5万人に、中国への門戸を開きたいと考えている。昨年11月にサンフランシスコを訪問した際、習氏はこれを「両国民の交流と協力の究極の願い」だと述べた。 しかしバーンズ大使は、中国政府の一部がこうした温かい言葉を真剣に受け止めていないと非難した。「サンフランシスコでの首脳会談以降、この公館や大使館で行われた公の外交プログラムに中国市民が参加するのを、治安部隊や政府省庁が阻止したり、合同旅行への参加を目的とした渡米を阻止したりした事例が61件あった。人々をまとめるのは非常に困難だった」。 その一方で、中国の学生や学者も、アメリカの国境警備当局から不当な扱いを受けたと報告している。在ワシントンの中国大使館はこれに正式に抗議しており、米当局が有効な渡航許可証を持った中国学生数人を、「正当な理由なく」尋問し、嫌がらせをし、ビザ(査証)を取り消し、さらには国外追放したと非難した。 アメリカはまた、中国への渡航について「レベル3」の旅行勧告を発表し、渡航者に対して「再考」を促している。バーンズ大使は、この警告が「人々を団結させる」というアメリカの約束と矛盾するものではなく、むしろ予防措置だと擁護した。 「中国では不当に拘束され、不当に起訴されたと思われるアメリカ人が投獄されている。私は拘束されている人たちを訪問し、その釈放を求めている」 大使は、アメリカ人数人が中国から「出国禁止」を言い渡され、空港でパスポートを取り上げられ、出国できない状態になっていると話した。 一方の中国は、15日以内の旅行でビザが免除される国の一覧から、アメリカを除外した。半面、オーストラリアとの関係修復を受け、同国がこのリスト入りしている。 とげとげしい関係性の中でも「人的交流」は比較的実現しやすい目標のはずだが、それがこれほどまでに難しくなっていることこそ、双方の信頼が欠けている証拠なのかもしれない。 ■ウクライナでの戦争 だが、米中の間に最大の分断をもたらしているのは、ウクライナでの戦争だろう。 アメリカは、戦場でロシアの進軍を食い止める鍵を、中国が握っていると考えているようだ。そしてバーンズ大使は、ロシアによる侵略を中国が支えることは容認できないという、アメリカのメッセージをあらためて強調した。 「中国はこの戦争において中立ではない」 「中国は正体を現している。ウクライナの一般市民に対して、この野蛮な戦争を仕掛けているプーチン大統領とロシアを支持している。中国企業が何を運んでいるのか、それがロシアの戦争遂行能力にどのような影響を与えているか、我々は知っている」 大使はまた、ロシアを支援する中国企業は「数万社」に上ると指摘。「アメリカはすでにかなりの数の中国企業に制裁を科しており、もし中国政府が手を引かないのなら、追加の措置を講じる用意がある」と述べた。 この発言は、先週イタリアで開催された主要7カ国(G7)首脳会議での声明と一致している。G7は、中国のロシア支援がウクライナでの戦争を「可能」にしていると主張。また、ロシアが欧米の禁輸措置を回避するのを手助けしているとされる中国の企業に対し、追加制裁を科すことも示唆した。 中国は、こうした警告を「傲慢、偏見、嘘に満ちた」ものだと一蹴している。 それでも、2022年に比べれば米中関係は改善したと考える人もいるだろう。ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した後、これに激怒した中国はアメリカの閣僚レベルとのコミュニケーションをすべて遮断した。2023年初頭にも、ブリンケン国務長官の訪中を目前に再び関係が悪化。北米上空を飛行した中国の高高度気球をアメリカが撃墜したことを受け、ブリンケン氏は訪問を取りやめた。 両国の関係は、昨年11月にバイデン氏と習氏がサンフランシスコで会談してようやく安定化した。 バーンズ大使は、着任後最初の2年間は大変だったと認め、中国当局とのコミュニケーションはほとんどなかったと話した。 また、「この非常に難しいライバル関係は、しばらくの間は続くだろう」と語り、前途は厳しいとみている。 (英語記事 South China Sea tensions force US and Beijing to talk more)
(c) BBC News