『相棒』12年ぶりに登場の高橋克実が物語をかき回す 心に刻みたい右京の名台詞も
シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポアロ、サム・スペードなど推理小説に登場する名探偵は多い。彼らに憧れている人もたくさんいる。『相棒 season22』(テレビ朝日系)の第6話には、そんな中のひとり、マーロウ矢木(高橋克実)が12年ぶりにシリーズに登場した。 【写真】『相棒』大河内春樹(神保悟志)と話す右京(水谷豊) ある日、警視庁の専用フォームから右京(水谷豊)を指名して、匿名の情報提供があった。それは、「17年前に起きた当時5歳の少女の誘拐事件の犯人は殺された」という内容。問題の事件は、老舗デパート藏本屋の令嬢・里紗(潤花)が睡眠薬で眠らされて連れ去られた経緯から、週刊誌が“眠り姫誘拐事件”と煽り、世間の注目を集めたものだった。 結局、被害者の少女はすぐに救出され、犯人は投身自殺を遂げたと思われていたが、今回の情報提供は、それが間違っているということを意味していた。挑戦状とも取れる投稿を受け、捜査に乗り出した右京と亀山(寺脇康文)は、藏本屋の関係者のもとを訪れる。すると、ちょうど里紗の婚約発表を大々的に行うために一族が顔を揃えていた。 しかし、会場のホテルでは、肝心の里紗が、何者かの手引きで会場を抜け出し、姿を消すという騒動が。防犯カメラの映像から、里紗の脱出を手助けしたのが、特命係と浅からぬ因縁がある私立探偵の矢木だと気づいた右京と亀山は、早速、彼の事務所を訪れる。矢木の態度が予想と違ってよそよそしいのが気になったふたりは、“眠り姫誘拐事件”に立ち戻って調査をし始める。 パーティ用の華やかドレスに引けを取らない美しさを持つ里紗を演じるのは、元宝塚歌劇団・トップ娘役の潤花。里紗を幼い頃から世話している家政婦によれば、里紗は誘拐された前後の記憶は曖昧で、事件以降はあまり外出をしなかったという“深窓の令嬢”。だが、矢木の事務所内の隠し部屋に匿われていた里紗は、すっと立ち上がる姿さえも綺麗で、矢木を見つめる瞳には芯の強さが窺えた。 矢木は「チャンドラー探偵社」を一人で営む私立探偵。推理小説マニアであり、愛読している作品の探偵にちなんで「マーロウ矢木」と名乗っている。中折れ帽やトレンチコートを身に着け、好きな酒はバーボン。今どき珍しい古風なハードボイルド派を気取っている。この手の探偵はこうして気取っているだけのことが多いが、矢木はこれまでに2度、特命係に協力して事件解決に貢献したことがあり、亀山とは顔見知り。「覚えてる?」と笑う亀山に「警察をクビになった猿山さん」と冗談を飛ばしていた。 探偵としてはかなり優秀な矢木。彼を怪しんだ右京と亀山は尾行を試みるが、なんと巻かれてしまう。そのことを家庭料理屋「こてまり」で聞いた美和子(鈴木砂羽)曰く、「薫ちゃんはシルエットで分かっちゃう」とのこと。しかも、右京は尾行は予測されていたのだろうと指摘。 「俺らはしてやられたってことですか?」と言う亀山に「尾行は君の案ですから、してやられたのは君だけですよ」と淡々と手厳しい言葉を投げていた。その後、再び矢木を尾行する機会がやってきた亀山は、なんと髪をきっちり七三分けにし、スーツでビシッと決めて黒縁メガネをかけた「町に溶けこむサラリーマン」に扮装。その姿を見た伊丹(川原和久)からは、「亀リーマン」と呼ばれていた。ちなみに尾行した先は夜の埠頭だったため、亀山がしっかり町に溶けこめていたかは非常に疑わしいところである。 推理もののドラマというのは、真実に近づく過程でまた事件が起きるなど予想外なことがあり、ドキドキするもの。『相棒』は毎回、そこにクスッと笑える要素や一言をうまく入れ込んでいる。そのバランスの良さが絶妙なのである。 「人を傷つけてまで守るべきものなどこの世にはありませんよ!」 右京はこう言って今回と17年前の事件の黒幕を追い詰めた。『相棒』には必ず伝えたいメッセージがある。右京や亀山が言うことは思えば当たり前のことなのだが、なにかに強く囚われてしまうとすぐに忘れてしまったり、軽んじてしまうことばかりだ。こうして思い出させてくれるたびに心に刻んでいきたいと思うのである。
久保田ひかる