伝説の役者が作った伝説の映画『竜二』は胸震える“昭和”のテイスト
1983年公開の自主映画『竜二』は、熱狂的なファンによって今も語り継がれる。主演・脚本の金子正次(33歳)は映画公開の1週間後にがんで他界、映画館の前には「金子正次の『竜二』は永遠に不滅です」と看板が出た。主題歌は友人・萩原健一の歌う「ララバイ」。中洲大洋劇場(福岡市)でこの映画が持つ「ザ・昭和」のテイストを堪能した、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、1月23日に出演したRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』でその魅力を熱く語った。 【写真で見る】神戸金史が語る~伝説の映画~
世代によって多様な「昭和」のイメージ
「昭和」と言うと、「古くさい」と揶揄されることが多くなりましたが、僕はまさに昭和の生まれ。人によってさまざまな「昭和」像があると思います。前半の20年までは戦争ですし、戦後の貧困の時期もありました。それから高度経済成長。新幹線が通って万博が開かれて。僕らが知っている昭和は、上り調子の明るいイメージがあります。 バブルの頃は学生時代だったのでリアルタイムで見ていますが、僕にとっての「昭和」は、その前の時代。大学時代に東京で見た古い商店街では、道の両側に今は見ることのない、売り出し中の花飾りがついていて、地域がにぎやかでした。「買い物かごを提げた人たちがいっぱいいる」みたいなイメージが、僕の中では昭和っぽい感じです。 きょう紹介する『竜二』という映画は、まさにその昭和。1970年代後半から80年代前半ぐらいのイメージです。妻から「ザ・昭和だよ。絶対観なきゃだめよ」と言われました。実際に観に行ったら、本当にその通りでした。
伝説の映画『竜二』
福岡市出身の川島透監督の作品で“伝説の映画”と言われた『竜二』(1983年・93分)が初公開から40年を記念して今、全国で上映されています。中洲大洋劇場(福岡市)で1月20日に観てきました。 東京・新宿が舞台で、ヤクザ者の竜二ら若者の青春群像劇。主演の金子正次さんが、原作・脚本も手がけ、自分たちでお金を集めて何とか作った、35ミリの本格的映画です。その年の映画賞を総なめにしますが、劇場公開されて1週間後に金子さんはがんで亡くなってしまいます。伝説の役者が作った、伝説の映画です。 ヤクザ映画と言えば、様式美にあふれた「任侠」映画が高倉健さん。その後は『仁義なき戦い』から「実録」ものがヒットして、派手な銃撃戦が展開されました。しかしこの『竜二』は全然違って、突っ張っている若者がヤクザをやめようする等身大の姿が映されています。その背景がすべて昭和の映像なんです。期せずして、この映画はその時代をきっちり描き撮っている。「時代」が一つの主人公になっている映画だと思いました。