【社説】与党と国民民主 数合わせより政策論議を
政権を運営するための与野党協議が、国会対策の数合わせになってはならない。目的は国民本位の政策遂行であるべきだ。 衆院選で与党が過半数割れしたことを受け、自民党と国民民主党の幹事長が会談し、公明党を含めた3党で政策協議を始めることで合意した。国民民主は個別の政策案件ごとに応じる構えだ。 与党は衆院で、野党の協力がなくては法案や予算案を通すことができない。国民民主の要求をのむことと引き換えに、2024年度の補正予算案、25年度の当初予算案や税制改正に賛成してもらおうというわけだ。 国民民主が与党に突きつけているのは、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」を178万円に引き上げることや、ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除だ。いずれも衆院選の主要公約だった。 国民民主は結党以来「対決より解決」を主張し、22年度当初予算や23年度補正予算に賛成した経緯がある。議席数は野党第3党ながら、与党から見れば最もくみしやすいのだろう。 少数与党が野党に協力を求めるのは当然のことだ。重要なのは、政策協議が国民の理解を得られるかどうかだ。 国民民主が訴える「年収の壁」の引き上げは、確かに衆院選で有権者の支持を得た。若い世代を含め、恩恵を受ける対象者は多い。 一方、実現すれば国と地方を合わせて年7兆6千億円の税収減が見込まれる。小さな額ではない。高額所得者ほど減税の恩恵が大きくなることもあり、財政全体のバランスを考慮する必要がある。 トリガー条項の凍結解除はガソリンが安くなる半面、ガソリン使用量が増え、脱炭素や地球温暖化対策に逆行すると根強い批判がある。 多様な捉え方がある以上、3党の協議は慎重に進めるべきだろう。与党には謙虚な姿勢を求めたい。多数派工作が露骨になるようでは内閣支持率の回復は見込めまい。 国民民主は衆院選で、与党の過半数割れを目標にしていたことを忘れてはならない。与党への接近は「自公政権の延命に協力するのか」という批判がつきまとう。是々非々を貫けるかどうか、有権者は注視している。 本来なら衆院選後に、与野党が真っ先に取り組むべきは政治改革であるはずだ。 衆院選で自民、公明両党が大敗を喫したのは、裏金事件や政治資金問題の甘い対応に対し、有権者が「ノー」を突きつけたからである。 与党は直近の民意を尊重して、立憲民主党をはじめ多くの野党と協力しながら、早急に実現の筋道をつけてもらいたい。 「抜け穴」が残ったままの政治資金規正法の再改正、政策活動費の廃止、企業・団体献金の廃止など協議するテーマはそろっている。
西日本新聞