福島県の大熊と双葉、昼夜の人口差が顕著 福島医大調査、医療需要を推計
福島医大医学部放射線健康管理学講座の研究チームは、東京電力福島第1原発事故に伴う避難地域の医療需要を、携帯電話ネットワークの人口推計を用いて検証した研究結果をまとめた。昼夜間の人口比に顕著な差があり、特に大熊、双葉両町は昼間の人口が夜間を大きく上回った。研究チームは実態に合った医療計画の強化を訴えている。 従来の住民票データを用いた方法では正確な地域人口の把握が難しいことから、時間帯や平日、休日別の人口動態を踏まえて医療需要を推計した。阿部暁樹(としき)研究員(27)と博士課程の樋口朝霞(あさか)氏(36)を中心にまとめた二つの論文が26日までに国際誌に掲載された。 樋口氏は2019~20年に双葉郡8町村の人口変動を分析。大熊の昼間の人口は平日で夜間の7倍、休日で3倍、双葉は平日で12倍、休日で5倍に上った。葛尾、浪江、富岡は2倍程度、楢葉、広野、川内はほとんど差がなかった。大熊、双葉は廃炉作業や中間貯蔵施設の従事者の流入を背景に、昼夜間の人口差が都心の東京都中央区(4・9倍)に匹敵する大きさで、樋口氏は「日中にそれだけ人がいる所の医療が今の状況でいいのかを注視していかなければいけない」と指摘。「復興が進むにつれて人口構造も医療需要も変わるため、調査を継続していく必要がある」と述べた。 また、人口推計を用いて救急搬送率を計算すると、国勢調査を基にした場合より搬送率が低くなり、全国平均値に近くなった。樋口氏は「より実際の搬送率を反映していると考えられる」とした。
社会政策検討にも
阿部氏は12市町村を対象に19~22年の人口動態を調べ、市町村ごとに特徴を五つのグループに分類した。分類は、平日の昼間に増えて夜間や休日に減る「対象区域外の勤務者」、一日中位置情報の変動がない「居住者」、日中に減って夜間に戻ってくる「対象区域内の定住者」などで、それぞれの市町村でどのグループがどれだけいるかを分析した上で医療需要を推計した。 阿部氏は「この手法は、将来の災害時における医療資源や社会政策の検討にも応用可能で、地域特性を詳細に分析する上でも有用」としている。
福島民友新聞社