グッチのサバト・デ・サルノが語る、サーフィンのインスピレーションと“着る人”を考えた服【2025年春夏コレクション】
6月17日(現地時間)、ミラノ・ファッションウィークでグッチの最新メンズコレクションが発表された。クリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノは、昨年9月のデビューコレクションで決定づけた方向性を着実に進化させている。 【写真56枚】グッチ2025年春夏メンズコレクションの全ルックおよび来場セレブをチェック! サバト・デ・サルノは今をときめくデザイナーである。この時代、「今をときめく」というのが何を意味するのかはともかく、昨年1月にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任して以来ずっとそうだった。誰もが望むポジションだが、誰にでもこなせるものではない。批評、論評、数字、四半期ごとの数字、売上予測など、悩みは尽きない。 そのようなノイズから逃れ集中するために、デ・サルノはある場所を再びショーの会場に選んだ。彼にとって常にインスピレーションを与えてくれる場所、美術館である。2025年クルーズコレクションを発表したロンドンではテート・モダン、今回のミラノではトリエンナーレ・デザイン・ミュージアムだ。 「旅に出るといつも、美術館は最初に訪れる場所のひとつです。美術館は私を満たしてくれる場所であり、新しいものを発見する場所でもあります。好きではないものも含めてね。しかし、その場を去る頃にはいつも、何かを得ることができているのです」と、彼はショーの数時間前、会場の陽光降り注ぐテラスで語った。 彼の背後にある3枚の巨大なムードボードは、様々な参照元でいっぱいになっていた。なかでも際立っていたのがサーフィン、というよりも作家ウィリアム・フィネガンの『バーバリアンデイズ』からのインスピレーションだった。サーフィンについての本ではなく、サーフィンをする人々についての本である。 「波に乗って好きなところに行く自由、その意志に惹かれるんです」と言うデ・サルノは、これがサーフィンをテーマにしたコレクションではないことを強調する。「ボードを持って歩くモデルは現れません」と、彼は言う。その通りだが、それでもサーフィンを思わせるモチーフは至るところに見られた。 ■人のための服が作りたい サーファーであれ何であれ、デ・サルノのコレクションの原点は“人”だ。彼はあくまで人のために服を作っているし、何よりも彼は、自身が作る服とそれを着る人の関係性は、人と環境の関係性と同じであってほしいと願っているという。 「出会ったばかりの人とすぐに仲良くなることはなかったとしても、相手をよく知ることで考えが変わることもあります」と、彼は言う。「オーディエンスには、ショーの18分間を越えて見守ってほしいですね」 もちろん、これは今に始まったことではない。2月に発表された2024年秋冬ウィメンズコレクションでサバト・デ・サルノが選んだ道は、数カ月を経た今、やはり正しかったのだとますます感じられるようになってきている。結局のところ、ファッションには時間が必要なのだ。前回のコレクションからは、いくつかの要素が引き継がれた。そのなかのひとつが、デ・サルノのコートへの情熱である。 ■ボリューム感のある実用的なルック 「コートは私にとって安全な避難所のようなもの」とデ・サルノは言うが、彼の言葉にも説得力があるというものだ。この暑さにもかかわらず、彼はディッキーズの黒いジャケットを着ていたのである。だから、コレクションのファーストルックがレザーのロングコートだったのは偶然ではなかった。はっとするようなライムグリーンの一着で、下からはサーフショーツが覗いていた。 これまでのコレクション同様、デ・サルノはホースビットローファーにも新たな解釈を加えた。過去にはプラットフォーム、クリーパー、プラットフォームで展開されたシューズを、ここではイルカからインスパイアされた細長いつま先が特徴のアンクルブーツに仕上げている。 しかし、なかでも一際目を引いたのが一連のシャツである。ユーティリティウェアのような3つのフロントポケットを備え、それぞれのアイテムにサーファーやイルカ、ハイビスカスの花、バナナの葉などをモチーフにしたサイケデリックなプリントがあしらわれていた。ルックとしてはボウリングシャツに近いが、その仕立てによって一段と高められていた。 服の仕立て、特にボリューム感について、デ・サルノはプレスとの対話の中で何度も繰り返し強調した。「私のファッションには大げさなステートメントはないかもしれませんが、多くのディテールで構成されているのは確かです」と、彼は言う。「今回のコレクションの特徴はボリュームです。クチュールを手がけるブランドでの経験が、ボリュームに対する私のアプローチを変えたことを見て頂けると思います」 ルーズでエアリーなフィットが特徴となった2つのルックが、彼の言葉を証明している。ひとつめは、センタープレスが入ったパンツのフロントスリットから新作のスニーカーが覗くルック。セットアップのジャケットは、スクエアなショルダーとピークドラペルを備えている。もうひとつには、控えめなバッグと、バレエシューズとサーフィンシューズの融合を思わせる一足が組み合わされていた。 非常にシンプルだが、同時に美しく実用的でもある。2月のショーから私が感じたことのひとつは、デ・サルノは着る人を変身させるような服を作りたいのではなく、着る人に寄り添う服を作りたいのだということだった。なぜなら、彼にとって服が人のようなものだとしたら、最高の服とは、ありのままのあなたを支えてくれる服なのだ。あなたを変えようとする服ではなく。 「人を怖がらせるようなファッションは好きではない」と、デ・サルノは言う。どういう意味だろうか? 「その場限りではなく、ずっと一緒にいられる服が好きなんです。つまり、レッドカーペットやInstagramのためだけの服ではなく、人と一体化するような服です。特に服というのは、着る人がどう感じたいかで選ぶものですから。服はそれを着る人によって選ばれるものですし、そのためには興味を持たれなければなりません。怖がらせるのではなくね。私も各コレクションで方向性を示してはいますが、服が着る人の個性を覆い隠してしまうようなことがあってはならないと考えています。私はグッチを着たあなたを見たいのであって、あなたがグッチを着ているのを見たいのではありませんから」 サバト・デ・サルノは、今始まったばかりの旅がどのようなものかをよくわかっている。それはゆっくりとした着実な歩みであり、目まぐるしく変わっていくこの業界で、時間を味方に付けることである。衝突も対比もない。ただ時間、人、服があるだけだ。 From GQ Italia by Francesco Martino Translated and Adapted by Yuzuru Todayama