中村倫也が打算的に戦い方を変える理由「今は役者としての武器を排していくフェーズだと思っている」
失踪した幼い娘を捜す家族を描く映画『ミッシング』。本作で、愛する娘の帰りを待つ石原さとみさん演じる母・沙織里と青木崇高さん演じる父・豊を、唯一取材し続ける地元テレビ局の記者・砂田裕樹役を演じるのが俳優の中村倫也さんだ。中村さん自身が纏う空気と繊細な演技によって、見る者が苦しくなるほどリアルな葛藤を表現している。本インタビューでは、数々の困難を経験してきた中村さんが過去の葛藤や、その末に辿り着いた俳優としての立ち振る舞い、仕事への向き合い方を明かしてくれた。 【写真】中村倫也が語る若手時代「25歳のときは箸にも棒にも引っかからなかった」
劇場に着いて、衣装に着替えて、ふらっと舞台上に出て、そのまま芝居をしたい
――本作は吉田監督の完全オリジナル作品。撮影中、印象に残ったことはありますか。 実は吉田監督って、脇の登場人物が大好きなんですよ。後半に出てくる砂田の新しい相棒のカメラマンや、商店街のクレーマーなどのキャラが大好きみたいで、ずっとモニターを見て笑っているのが印象的でした。「セリフ部分、ちゃんと見てチェックしているのかな」とたまに思ってしまうぐらい、ずっとセリフのない脇の登場人物を見て笑っていて(笑)。とにかく楽しそうな姿が印象的でした。 撮影現場は、和気藹々としつつも、グッとスイッチを入れなくてはいけないシーンは緊張感を高めつつ、大人な現場でした。監督だけでなくスタッフの皆さんも、そういう切り替えができる現場だったと思います。 ――中村さんご自身は、役とオフの時間を分けるタイプですか? いえ、もうこのまま。今の僕の延長線上です。オンオフ切り替えるとか役に入り込むとか、そういう一線がある方もいると思うのですが、僕は本当にその一線がないし意識したりもしないです。よく舞台をやっているときに思うんですよ。劇場に着いて、衣装に着替えて、ふらっと舞台上に出ていって、そのまま芝居をしたいなって。そう思うくらいスイッチがないですね。
お客さんとして映画を観られなくなった
――本作の舞台は静岡県の沼津。撮影はいかがでしたか。 毎日現場に行って、撮影が終わったらトンボ帰りだったので、実は沼津に泊まっていないんです。なので、撮影以外の時間はあまり楽しめなかったです。以前、深海魚が気になって沼津港に深海おにぎりを食べに行きましたけど、今回は撮影をしていた記憶しかないです。 ――映画のタイトル『ミッシング』にかけて、今まで失くしたもので最もショックだったものを教えてください。 映画を観るときのお客さんとしての目線かな。出演している役者さんは知り合いが多いし、見ていても映像のアングルや構成を気にしてしまうんです。これはこう撮りたいんだなと分析したり、照明の当たり方や使い方といった演出的な部分にばかり目がいってしまったり。一人の鑑賞者として、シンプルに感情移入して作品に没入するみたいな、昔は当然だったことが、作る側の目線でしか見られなくなってしまった。職業柄、しょうがないことなんですけどね。