〈歯科技工士たちが告発〉「もう限界だ…」歯科医によるダンピング、後継者不足、無責任な厚労省…「虫歯の再発は歯磨きのせいとは限らない」「業界の構図に問題がある」このままでは“入れ歯難民”が続出か
歯医者が技工士を探し回っている状態に
そのしわ寄せは、結局安くて悪い装置を被せられる患者が負う羽目になる。それにしても冒頭の「入れ歯難民」とはどういう状況なのか。A氏が解説する。 「日本の歯科は、約95%が保険の市場。でも構造的な問題から、保険適用の入れ歯は今、作り手がどんどん少なくなっています。 詰め物や被せ物で間に合わない場合は、基本的に差し歯にするか、入れ歯にするかの二択です。差し歯の場合は主にCAD/CAM(キャドキャム)という機械を使って作るので、若い技工士の中にもできる人が結構います。 一方で、入れ歯はすごく手がかかる割に採算が合わない。だから若い層はみんな効率のいいCAD/CAMのほうに移ってしまうんです。 現在は20人以上の技工士を抱えている大きなラボでも『うちでは入れ歯はやりきれません』と依頼を断っている状況で、歯医者が保険適用の入れ歯を作れる技工士を探し回っています。 患者さんもお金があればインプラントを打って差し歯を作る選択肢もあるでしょうが、そんな余裕のない人は保険で入れ歯を作ってもらうしかない。でも、作り手がそういった状況なので、“入れ歯難民”になっている患者さんがどんどん増えているんですよ」
歯科技工所は「残業が多い割に、給料が安い」
歯科技工士が抱える問題は、それだけではない。 「そもそも歯科技工所の95%が従業員5人未満で、そのほとんどが1~2人でやっている零細ラボです。しかも高齢化が進んで、今は40歳以上が7割、60歳以上も2割近くを占めています。10年後に歯科技工士がどれだけ減っているのかと考えると、恐ろしくなりますね。 また、技工士学校の入学者は減少の一途を辿っていて、どこもほぼ定員割れの状態です。技工士の免許を持つ人は一定数いるのに、現場の人数はどんどん減っているという現象も進んでいます。 その理由は、労働条件が決していいとは言えず、残業が多い割に給料が安いからです。その結果、技工士の高齢化が進んでいるのも問題です」 歯科技工士が苦境に喘いでいる現状は、今の一般的な歯科診療現場にも悪影響を及ぼしているようだ。自嘲しながらも、A氏はこう警鐘を鳴らす。 「私たちは歯医者さんから(患者の)歯型を預かり、その歯型に材料を入れて、口の中と同じ形を再現します。それをもとにちゃんと作れば、基本的に患者さんの口の中にピタッと合うものが作れるんです。 両側の歯がちょうどよく当たり、隙間もなく、力をいれないと入らないということもない。私たちは、噛んだときにほかの歯と同様に当たるように作っているから、ぴったり合うはずなんですね。 でも、ダンピングに精を出し過ぎているラボが作る詰め物やかぶせ物は、口の中に入れても、まず合いません。入らないから、歯医者さんが片側を削り、咬合紙を使って噛み合わせを見る。そうしているうちに、技工士が再現したはずの歯の形が、しっちゃかめっちゃかになってしまうんですよ。 それでも入らない場合は、義歯の上の部分をガンガン削って、下の部分を漉(す)いて入れる。すると、下の部分がスカスカなので、3~5年経てば虫歯になってしまい、患者はまた歯医者に通うハメになる。 『これ5年くらい前に入れたんですけど』『ああ、それはあなたの磨き方が悪いから虫歯になっちゃったんですね。ちょっと治しましょう。これからはちゃんと磨いてくださいね』というやりとりが繰り返されるんです。 歯医者から『歯を磨いていない』と言われたら、患者は『しょうがないな』と納得してしまうでしょう。でも、最初からちゃんとしたものを入れていれば、そんなことにはならない。 歯医者も安い粗悪品を患者さんの中にとりあえず押し込んで、それで終了にしちゃう。それが、歯科医療の現状なんですよ」