<大阪北部地震から1年>被災後も営業しながら再建した銭湯店主「改めてがんばらなアカン」
工事を朝早くから始め開店時間には終了
営業しながらの修理には工夫が必要だった。 「工事は通常朝9時ごろから始まりますが、前倒しをして7時ごろから仕事に取りかかり、店を開ける午後3時までに終了するよう、業者が段取りを組んでくれました。その代わり職人たちが早く帰ると、工期や工費が余分にかかりますから、おやっさん、そこらへんの心積もりをよろしくと打診され、了承しました」(池田さん) 店内での大事な修理は事前に顧客に告知し、休業して臨んだ。休業期間を延ばすわけにいかない。職人たちは決められた工事をやり遂げるため夜遅くまで持ち場で作業に打ち込んだ。壽惠子が夜食でもてなして労をねぎらったという。 池田さんは工事の縮小だけを優先したわけではない。 「浴室の屋根にはあちこちに亀裂ができていました。当初は1か所ずつ直していけばいいかとも思ったのですが、業者は長い目で見たら全面的に張り替えた方がいいと。やはりそうかと納得しましたので、業者の意見に従いました。クレーンで屋根に資材を上げる本格的工事になりました」(池田さん) 互いを尊重しながらの粘り強い対話による課題解決、軌道修正、創意工夫、心配りに、大いなる決断。長年培ったさまざまな知恵を組み合わせて、試練を乗り越えていく。
顧客は「辛抱するから休まずに開けて」
断続的改修で不便をかける顧客の理解が欠かせない。長らく通うシニア世代の常連たちが、毎日の開店を心待ちにしてくれた。 「『ちょっとぐらい傷んでいてもわたしら辛抱するから、休まずに開けてくださいね』と、皆さん合言葉のように、声をかけてくれました。被災直後、脱衣場と浴室の接合部分から雨が流れ込んでくることがあったのですが、『お湯さえ沸かしていれてくれたら、それで十分。雨漏りしても隅の方だから大丈夫、風呂に入るのにじゃまになりませんから』と、受け流してくれたので助かりました」 (池田さん)
地域密着で50年「改めてがんばらなアカン」
困ったときはお互いさま。店主が謙虚なら、顧客たちも謙虚だ。工事の進行ぶりを話題に会話が弾む。 「地域密着で50年。地震で痛い目に遭いましたが、たくさんのお客さんから温かい言葉や励ましの言葉をいただき、改めてがんばらなアカンなと思いました」(池田さん) 店主ファミリー、建設業者や職人たちに、多くの顧客たち。心地よい湯舟のように、きずなを深め、ぬくもりを確かめ合う再建となった。 (文責/フリーライター・岡村雅之)